本研究では,金属ルテニウム酸化物SrRuO3(以下SRO)の焼結体試料を用いて,酸化物が室温付近・還元剤雰囲気下で受ける影響について電気伝導をプローブとして調べてきた。バルク敏感な測定方法(4端子法)と界面敏感な測定方法(3端子法および点接触法)を適用することで,試料内部と界面を分離して電気抵抗を測定し,主にその時間変化から考察を行ってきた。これまでに以下のことが明らかとなった。(1) 室温で水素雰囲気下ではSROバルク内部は影響を受けないが,界面抵抗は水素導入直後から上昇し続けること。(2) その界面抵抗変化は高温ほど大きくなること。(3) SROとの界面を形成する電極の材質により反応速度が変わること(金,銀,銅,鉄の順に反応速度が小さくなること)。(4) 酸素で置換すると界面抵抗は減少すること。(5) 水素の他,一酸化炭素雰囲気下でも界面抵抗は上昇すること(ただし,界面抵抗の上昇率は水素の方が10倍以上大きい)である。最終年度は,特に水素および一酸化炭素による界面抵抗の上昇を反応速度論により解析し,表面/界面から徐々に酸素欠損が進行することで界面抵抗が上昇するというモデルで現象を非常によく説明できることが分かった。速度定数の温度依存性からは水素,一酸化炭素雰囲気での活性化エネルギーを評価した。また,界面抵抗上昇後,酸素雰囲気に置換すると,元の抵抗値まで界面抵抗が減少する様子が観測され,これを酸素充填のプロセスとして同様に反応速度論の解析を行った。酸素充填時では,前段階の酸素欠損の度合いによって,速度定数が複数現れることが分かり,界面抵抗の増大が大きい(水素による還元)場合は,50℃以下の温度範囲で少なくとも3つの速度定数が必要であることが分かった。これは,界面下のやや深い部分では酸素充填が最も速く,界面付近では酸素充填がゆっくり進むことに対応していると考えられる。
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