研究実績の概要 |
●傾角反強磁性体におけるトポロジカルホール効果 有限の立体角を張る磁化構造により引き起こされるホール効果(トポロジカルホール効果)を、傾角反強磁性体に対して解析的に調べた。運動エネルギーに比べて反強磁性交換相互作用が強い領域では、ホール抵抗が電子の有効質量の2乗に比例することを見出した。これは、マンガン酸化物で観測されている巨大なホール効果の理解に重要となる可能性がある。また、理論的に興味深いこととして、有効磁場(有効ベクトルポテンシャル)の表式が、反強磁性体の磁化ダイナミクスを記述するラグランジアンの運動項と、空間・時間成分の対応があることを見出した。結果は Phys. Rev. B 誌に掲載された。
●トポロジカルネルンスト効果に対するマグノンドラッグ効果 トポロジカルホール効果の熱電版であるトポロジカルネルンスト効果に着目してマグノンドラッグ効果(マグノンの流れに引きずられて電子の流れが生じる効果)を調べた。具体的には、磁化構造存在下で温度勾配によって誘起される横電流を計算した。横方向の流れが生じる過程(M:マグノンのトポロジカルホール効果、E:電子のトポロジカルホール効果)とマグノン流が電子流を誘起する過程(S:スピン移行効果、P:運動量移行効果)との4通りの組み合わせのうち、(M,S)を除く他の3つの過程に対応する表式を解析的に得た。(M,S)が存在しない物理的理由として、マグノンドラッグにおけるスピン移行効果は準平衡過程であるためであると議論した。東邦大学の大江研究室で行われたシミュレーションの結果を、今回得られた表式で解析することにより、上記諸過程のうち(M,P)の組み合わせが支配的であることを見出した。シミュレーションとその解析結果については Appl. Phys. Lett. 誌に掲載された。
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