研究課題/領域番号 |
19K03744
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
河野 浩 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (10234709)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 反強磁性体 / スピントルク / スピン起電力 / マグノンドラッグ効果 / ジャロシンスキー・守谷相互作用 |
研究実績の概要 |
反強磁性体のスピン移行トルクとその散逸補正(α項)、減衰トルク(β項)の微視的計算を行った。β項とα項は強磁性体の表式と類似しているが、スピン移行トルクは強磁性体とは逆符号、すなわち電流で磁壁が駆動される方向は強磁性体とは逆であること、を見出した。この結果は角運動補償点におけるフェリ磁性体GdFeCo(反強磁性的な磁化ダイナミクスが期待される)の実験結果と整合している。さらに、反強磁性体では2種類のスピン移行トルクが存在すること、スピン波のドップラーシフトには両方が同じ程度寄与することを示した。伝導電子のホッピングを調節して、反強磁性のトルクと強磁性のトルクを連続的につなげて議論した。 反強磁性体のスピン起電力の計算に着手した。これは以前行っていた研究の再開であるが、今回はスピン緩和の効果、および反強磁性体では重要になると考えられる非断熱過程を新たに考慮して計算を行っている。これは、(次年度に調べる予定である)反強磁性金属におけるマグノン・ドラッグ効果の物理的過程を議論する上でも欠かせない解析である。 バンド電子と局在スピンの交換相互作用に起因するジャロシンスキー・守谷相互作用の理論解析を行った。まず、スピン軌道相互作用が強い系にも適用できる一般公式をファインマン図形の方法で導出した。バンド電子に媒介されるジャロシンスキー・守谷相互作用の大きさは、一般に磁化の大きさや方向に依存するため、自由エネルギーにおけるものとスピン波に対するものでは、一般に異なることを見出した。強磁性トポロジカル絶縁体とラシュバ強磁性体に対して具体的に計算し、これを確認した。一方、ワイル強磁性体、およびスピン軌道相互作用の弱い系では、そのような違いは無いことを見出した。ワイル強磁性体については、ジャロシンスキー・守谷相互作用はカイラル量子異常に起因するといった特殊性によるものであることを議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トポロジカル・ホール効果に対する多体効果については、事情により一旦中断している。一方で、バンド電子に媒介されるジャロシンスキー・守谷相互作用の理論解析が進展し多くの新しい知見が得られており、研究の次の段階として、媒介する電子間の多体効果を取り入れて調べることが、重要問題として浮上してきた。また、反強磁性金属におけるスピントルクの計算が進展し、スピン起電力の計算に着手した。後者は、当初の目的であるマグノン・ドラッグ効果の解析へとつながるものである。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めている、バンド電子に媒介されるジャロシンスキー・守谷相互作用の理論に、多体効果を取り入れて調べることが興味深い問題として浮かび上がっている。また、反強磁性金属におけるスピン起電力の微視的計算を遂行し論文としてまとめ、マグノン・ドラッグ効果の解析に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者である学生の旅費も確保していたが、コロナのため旅費の支出がなかった。 また、学生の増加などにより次年度に想定外の支出が予想されるため、必要最小限の支出に抑えた。
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