研究課題
銅酸化物高温超伝導体はd波の超伝導対称性を有するため、(110)界面に分散を持たないゼロエネルギー・アンドレーエフ束縛状態の存在することが理論的に予測されている。実験的にも、アンドレーエフ束縛状態の存在はトンネル分光により広く実証されてきた。しかしながら、原理的に直接観測出来るはずの角度分解光電子分光(ARPES)を用いたアンドレーエフ束縛状態の報告例は存在しない。このことは、ARPES実験に必要な平坦な試料表面の作成が、銅酸化物高温超伝導体の(110)面では困難であったことに起因すると推測される。本研究は「試料の微細加工」・「試料のへき開・破砕の工夫」・「顕微ARPES」を組み合わせることで「非容易へき開面でのARPES手法」を確立し、銅酸化物高温超伝導体の(110)面に現れるアンドレーエフ束縛状態を直接的に観測することを目的としている。昨年度は、La単銅酸化物高温超伝導体(LSCO)を微細加工することで、これまでAPRES測定が広く行われてきた(001)面だけではなく、(100)面でのマイクロARPESに成功していた。本年度は、同じく非容易へき開面である(110)面でのマイクロARPES測定ならびにアンドレーエフ束縛状態の観測を目的として研究を進めた。新型コロナウイルスの感染拡大により、当初予定していた海外放射光施設でのオンサイト実験は出来なかったが、スタンフォード放射光施設を利用したリモート実験を行った。その結果、(110)面での光電子強度の観測、さらにはフェルミ面やバンド分散の観測に成功し、アンドレーエフ束縛状態の直接観測に向けて大きく前進した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、入射光をマイクロ集光したマイクロARPESにより、La系銅酸化物高温超伝導体の(110)面の電子状態の測定を行った。マイクロビームの利用により、非容易へき開面である(110)面においても、ARPES実験を行うことに成功し、バンド分散やフェルミ面の観測に成功した。銅酸化物高温超伝導体において、(110)面のARPESの報告例はこれまでになく、アンドレーエフ束縛状態の直接観測に向けて重要なステップを踏むことが出来た。
これまでの研究から、非容易へき開面である(100)/(110)面でのARPES測定の方法・手順を確立することが出来た。一方で、超伝導ギャップ内に現れると予測されるアンドレーエフ束縛状態を観測するためには、高分解能での測定が必要である。また、アンドレーエフ束縛状態が波数依存しないフラットバンドを形成するかどうかを検証するためには、波数依存性の測定を行う必要がある。これらの測定は長時間を必要とすることから、実験時間の有効活用ならびに測定の高効率化が必須である。そこで今後は、これまでのデータ・結果を踏まえて、主にリアルタイムでのデータ解析の効率化・高速化を測り、本研究課題の主目的であるアンドレーエフ束縛状態の波数依存性を精密に検証する。
新型コロナウイルスの感染拡大の推移を見ながら、海外放射光施設での利用実験を計画していたが、オンサイトでの実験は見送らざるをえない状況となり、使用計画の見直しが必要であったため。次年度使用額は、翌年度の海外旅費として合算して使用する予定である。
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