研究課題/領域番号 |
19K03750
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
加藤 治一 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (60363272)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 励起子凝縮 / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
Pr0.5Ca0.5CoOx(以下PCCO)は酸素量が定比(3.0)に近いときは金属絶縁体転移をなすことが知られている。これは励起子凝縮が起こっているためとの解釈が近年提出されている。それを踏まえ、本研究ではPCCOについて特に酸素量に留意した物質合成および核磁気共鳴(NMR)測定を行っている。本年度は試料の合成方法として固相反応法を採用したため、得られた試料の酸素量は完全定比には至っておらず(2.94程度)、励起子凝縮と関連付けられる金属絶縁体転移を再現できてはいない。一方、酸素不定比性が大きい試料(~2.8)と今回の試料について、コバルト核のNMR信号は大きく変化する。前者では~120MHz付近に鋭いピークが見られてたが、後者ではその強度がはっきりと弱まる。原因は現在調査中であるが、酸素量が僅かに欠損する今回の試料でも励起子凝縮の兆候が試料の大部で起こり始めており、それがコバルト核周りの電子状態を大きく変化させてしまったためではないかと推定している。以上を確かめるために、励起子凝縮相に直接対応する信号を探索中である。また同時に、比較物質としてアルカリ土類元素の種類を変えたPr0.5Ca0.5CoOx(PSCO)についても試料合成、NMR測定を行った。PSCOにおいては、酸素量によってNMRスペクトルの形が変化する。その素因追求のため、Pr/Srの比率を変えた場合のスペクトルとを比較した。PSCOのスペクトルは単一の幅広のピークからなるが、後者の方はそうではない。コバルト電子に起因する核位置での電場勾配が大きく変化したためと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PCCOの試料合成については、酸素量が完全に定比の試料を得るには至っていない。すなわち、マクロ物性測定では金属絶縁体転移が観測されていないため、励起子凝縮が完全に起こった状況は再現できていない。ただ、酸素量に注目して核磁気共鳴スペクトルを比較することで、今まで得られた信号がどのような由来によるものかは明らかにできたように思う。原因は現在調査中であるが、酸素量が僅かに欠損する今回の試料でも励起子凝縮の兆候が試料の大部で起こり始めており、それがコバルト核周りの電子状態を大きく変化させてしまったためではないかと推定している。PSCOに関しては、試料合成および核磁気共鳴測定ともに順調に進展していると考えている。核磁気共鳴信号の測定範囲は一部に留まっているものの、PCCOとの差異ははっきり現れており、両者の電子状態を比較する手がかりになろう。
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今後の研究の推進方策 |
PCCOについてはまずは酸素量が定比の試料を得たい。そのために、湿式合成法や高圧アニールなどの手法を試す予定である。励起子凝縮相に特徴的な信号の直接検出には至っていないので、測定周波数を拡張してこまめに探索していきたい。並行して現在得られている信号について動的挙動を明らかにして、間接的な形ではあるが相の変化を見ていく予定である。PSCOについては、明確な信号が検出されているので、Pr/Srの比率を変えた参照系とともにスペクトルの全貌を得る。はっきりとしたスペクトル線の帰属を行うことで、励起子凝縮相との比較を念頭に置きながら系におけるコバルトのd電子状態を明らかにしたい。また、Yを含むペロブスカイト型コバルト酸化物は室温強磁性を示すことが知られている。この系に関しても試料合成・NMR測定を行い、励起子凝縮相との異同を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)発表予定であった学会の開催キャンセルにより、旅費相当分が使用されなかったため。 (使用計画)繰越予算は新年度の予算と合算し、消耗品(特に薬品)の購入に当てる。
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