研究実績の概要 |
Pr0.5Ca0.5CoOx(以下PCCO)は酸素量が定比(3.0)に近いときは金属絶縁体転移をなすことが知られている。これは励起子凝縮が起こっているためとの解釈が近年提出されている。それを踏まえ、本研究ではPCCOおよび関連物質について、特に酸素量に留意した物質合成および核磁気共鳴(NMR)測定を行ってきた。以下では類縁化合物として、PCCOと形式価数が同じであるが強磁性を示すPr0.5Sr0.5CoOx(以下PSCO)を中心に扱う。(1)試料の含有酸素量評価:試料が酸には難溶である。このため、試料を希酸とともに密閉容器に閉じ込め、水熱反応を利用することで一旦溶かし、その後ヨードメトリー法によって試料の含有酸素量を評価する手法を開発した。固相反応法で作成したPCCOはわずかに酸素欠損がある。一方、PSCOの欠損酸素量はPCCOのそれよりも小さいようだ。(2)PCCO,PSCOともに、含有酸素量の異なるいくつかの試料についてNMRスペクトルを測定した。細かな差異はあるものの、試料の含有酸素量に関わらず、PCCOは~120MHz,PSCOは~110MHzをそれぞれ中心として、ともに数十MHz~百数十MHz信号にわたる広い範囲に信号が観測された。強磁性エンハンスメントを受けた、磁気相にあるCo核に由来する信号と思われる。PCCO,PSCOに同様のスペクトルが得られたということは、両者に体積分率こそ異なるが、性質は同様の磁気相が含まれていることを暗示している。金属絶縁体に近いPCCO試料でも信号は観測されるということは、励起子絶縁相にごく近接して磁気相があることを暗示している(励起子絶縁相と磁気相が同じ起源からくることを否定しない)。またスペクトルの広がりは、磁気相においてCoのもつスピンの大きさに変調が起こっていることを伺わせる。
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