固体結晶中の多様な電子自由度を多極子の自由度を用いて整理することで、交差相関物性を系統的に理解する試みにおいて、電子系のハミルトニアンを多極子基底で展開する一般的手法を開発した。また、線形及び非線形応答において、その発現に必須のモデルパラメータを系統的に特定する手法を開発し、多極子基底で 表したハミルトニアンと併用して、各種物性応答の微視的起源を明らかにする一般的な処方箋を与えた。これらは既に論文として出版と投稿を済ませており、前者はJPSJのEditors' ChoiceおよびMost Cited Articles in 2022に選ばれている。これら一連の成果により、電子ハミルトニアンを多極子基底をビルディングブロックとして構築する方法論が確立し、スピン軌道物性を示す物質の微視的な視点からの系統的な解析と予測が可能になった。 上記のアルゴリズムに基づき、固体結晶や分子のモデルハミルトニアンを自動生成するPythonライブラリを開発し、整備を行った。また、生成された基底や結晶 構造を対称操作に基づき視覚化するアプリケーションも開発した。このようなソフトウェアの開発と並行して、カイラリティと電気トロイダル単極子との対応関係、カイラル結晶系のフォノン分散と電気トロイダル単極子との関係、電気トロイダル双極子秩序下における回転子応答などについて明らかにした。カイラル物 質の音響フォノン分散は右偏向と左偏向で音速は一致し、分散の分裂は波数の3次以上の高次項から生じること、光学モードの左右分裂は擬スカラー量により特徴づけられることを明らかにした。また、電気トロイダル双極子秩序の特性を解明し、これを利用した縦応答のスピン流生成方法を提案した。上記の手法と第一原理電子状態計算を融合して、基底分解の係数を求める方法を開発し、論文にまとめているところである。
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