研究課題
反強磁性絶縁体Sr2IrO4とSr3Ir2O7はこれまでの研究からしばしば(スピン軌道相互作用誘起の)「モット絶縁体」と「スレーター絶縁体」であると言われる.しかし,この分類を否定するような実験結果も一部にはあり,これらの物質の基底状態が単なるモット絶縁体やスレーター絶縁体のどちらかということではなく,両者の寄与を定量的に評価できるような実験が必要となっていた.本研究課題では,反強磁性転移温度上下でのバルク電子構造のわずかな変化を高精度・高信頼度で観測可能な手法として硬X線励起のIr 4f内殼光電子分光に注目し,実験を行なった.その結果,Sr3Ir2O7のIr 4f内殼光電子スペクトルでは主ピークの低結合エネルギー側の成分が常磁性相では反強磁性相に比べてわずかだが有意に増大していることが明らかとなった.この成分は光電子放出により生成された内殼正孔を非局所から長距離遮蔽する成分であることが理論計算との比較から明らかとなり,この実験から反強磁性秩序が非局所遮蔽効果に負の影響を与えていることが明らかとなった. 一方,Sr2IrO4では,常磁性相におけるこの成分の増加量はSr3Ir2O7に比べて小さく,非局所からの長距離遮蔽プロセスが有効に働いていないことを示す結果が得られた.温度変化によってスペクトル形状が変化した理由として磁気的状態の違いを反映している可能性もあるため,さらに詳細な温度変化を調べる必要が出てきた.一方,α-OsCl3については,市販の原材料OsCl3に放射光X線を照射しながら昇温することで結晶構造をモニターしながら合成温度の最適条件の決定を目指した.その結果,高温で焼成することによりα相とは異なる相が出現することが明らかとなった.現在,さらに詳細な育成条件の絞り込みを行なっている.
2: おおむね順調に進展している
スピン軌道相互作用が電子構造に与える影響についてさらに詳細な知見を得るため,ビスマス系化合物を参照物質として含めて研究課題を遂行することとした.
新型コロナウィルス感染症の影響により放射光利用実験ができなくなっているため,学内実験装置を使って代替実験を検討している.
新型コロナウィルス感染症の影響による日本物理学会年会中止に伴って,出張旅費等を執行しなかった.一方,当該感染症の影響により放射光利用実験ができなくなっている対策として,学内での代替実験を進めており,2020年3月にヘリウムガス購入等に充てた.
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
JPS Conf. Proc.
巻: 30 ページ: 011146 1-6
10.7566/JPSCP.30.011146
Physical Review Letters
巻: 123 ページ: 036404 1-5
10.1103/PhysRevLett.123.036404
https://researchers.adm.konan-u.ac.jp/html/102_ja.html
http://www.phys.konan-u.ac.jp/~yamasaki/papers.html