研究課題/領域番号 |
19K03755
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
磯部 雅朗 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 上席研究員 (10354309)
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研究分担者 |
新井 正男 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 技術開発・共用部門, ステーション長 (40222723)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超伝導 / 強相関電子系 / 空間反転対称性 / 電子構造 |
研究実績の概要 |
空間反転対称性の破れた超伝導”、即ち、対称中心の無い空間群を持つ物質の超伝導状態では、反対称スピン軌道相互作用により、①クーパー対波動関数のパリティ混合、②上部臨界磁場のパウリ極限の増大が期待される。近年、本課題代表者は、5d遷移金属Irを主構成元素とする低対称(空間群:C222)新型結晶構造超伝導体BaIrSi2(Tc~6 K, Hc2(0)~6 T)を合成発見することに成功した。本研究課題では、この低対称新型構造に由来する超伝導状態を明らかにすることで、空間反転対称性の破れた超伝導固有の特徴をより深く理解し、強磁場超伝導体設計の糸口を見いだすことを目的とする。
これまでに、BaIrSi2の超伝導物性を詳細に調べた。先ず、低温比熱測定を行った。その結果、BaIrSi2は典型的な2種超伝導体(kGL~90, x~7 nm, l~0.6 mm)であり、その超伝導は電子格子結合定数lep~0.8程度の中間的結合力を持ったクーパー対形成によるものであることを明らかにした。 さらに、ゼロ磁場ZF-mSR及び横磁場TF-mSR測定を行い、BaIrSi2の超伝導状態には自発磁化、即ち、時間反転対称性の破れは観測されないこと、そして、TF-mSR Asymmetryの緩和率sが極低温で温依存性が見られないことなどが判明した。これらの実験結果から、BaIrSi2の超伝導は、フェルミ面にノードを持たないフルギャップ超伝導であることが明らかになった。
2020(令和2)年度は、BaIrSi2の類縁新化合物の物質探索を行った。その結果、4d遷移金属Rhを基とする新超伝導体BaRhSi2を合成発見した。Rietveld構造解析及び電気抵抗測定、磁化率測定を行い、Tc~5 K, Hc2(0)~5 Tのバルク超伝導(体積分率約100%)であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、BaIrSi2の超伝導物性を詳細に調べた。先ず、低温比熱測定を行った。その結果、BaIrSi2は典型的な2種超伝導体(kGL~90, x~7 nm, l~0.6 mm)であり、その超伝導は電子格子結合定数lep~0.8程度の中間的結合力を持ったクーパー対形成によるものであることを明らかにした。 さらに、ゼロ磁場ZF-mSR及び横磁場TF-mSR測定を行い、BaIrSi2の超伝導状態には自発磁化、即ち、時間反転対称性の破れは観測されないこと、そして、TF-mSR Asymmetryの緩和率sが極低温で温依存性が見られないことなどが判明した。これらの実験結果から、BaIrSi2の超伝導は、フェルミ面にノードを持たないフルギャップ超伝導であることが明らかになった。
2020(令和2)年度は、BaIrSi2の類縁新化合物の物質探索を行った。その結果、4d遷移金属Rhを基とする新超伝導体BaRhSi2を合成発見した。Rietveld構造解析及び電気抵抗測定、磁化率測定を行い、Tc~5 K, Hc2(0)~5 Tのバルク超伝導(体積分率約100%)であることを確認した。
ここまでの研究で、BaIrSi2の超伝導状態はほぼ解明された。加えて、類縁新化合物BaRhSi2を合成し、その超伝導基礎物性を明らかにした。構造解析により、本化合物の非対称局所構造歪みは大きいことが分かっており、相当量の反対称スピン軌道相互作用によるフェルミ面分裂が期待されるが、本物質系は、それのみでは異方的超伝導を発現し得ないことが明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、BaRhSi2の良質資料作製と、それを用いた低温比熱測定による超伝導物性解明を行う。同時に、第一原理計算により、反対称スピン軌道相互作用とフェルミ面分裂の定量評価を行う。これにより、結晶構造と電子構造、超伝導状態の関連性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020(令和2)年度は、合成実験・物性測定実験・バンド計算などを中心に行ったが、概ね過去の備蓄消耗品を用いつつ、既設の装置・設備を使って研究を進めることができた。その結果、予定よりも物品等を買い足す量を抑制することができたため、実収支として次年度に繰り越す分が発生した。
次年度への繰越金は、実験器具や消耗品の購入、実験室環境整備、研究成果整理のための費用、論文投稿費用、学会参加費、旅費などに充当する予定である。
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