研究実績の概要 |
空間反転対称性の破れた超伝導では、反対称スピン軌道相互作用(ASOC)により、①クーパー対波動関数のパリティ混合、②上部臨界磁場のパウリ極限の増大が期待される。近年、本課題代表者は、対称中心を持たない新型結晶構造超伝導体BaIrSi2(空間群:C222, Tc~6 K, Hc2(0)~6 T)を合成発見した。本研究課題では、この低対称新型構造に由来する超伝導状態を明らかにすることで、空間反転対称性の破れた超伝導固有の特徴をより深く理解し、強磁場超伝導体設計の糸口を見いだすことを目的とする。
これまでに、BaIrSi2は典型的な2種超伝導体(GLパラメータkGL~90, コヒーレンス長x~7 nm, 磁場侵入長l~0.6μm)であり、その超伝導は電子格子結合定数lep~0.8程度の中間的結合力を持ったクーパー対形成によるものであることが分かった。さらに、ゼロ磁場/横磁場μSR測定からは、BaIrSi2の超伝導状態には時間反転対称性の破れはないこと、フェルミ面にノードを持たないフルギャップ超伝導であることが明らかになった。 加えて、新規合成発見した超伝導体BaRhSi2について構造解析、物性測定、第一原理計算による電子構造解析を行った。その結果、BaRhSi2は、Tc~5 K, Hc2(0)~4 T, kGL~90, x~8 nm, l~0.7μmの2種超伝導体であること、電子格子結合定数lep~0.6程度の弱結合超伝導であることが判明した。また、フェルミレベル近傍のASOCバンド分裂は、BaRhSi2で0.03 eV、BaIrSi2で0.07 eVと見積もられた。
本研究により、新型結晶構造を有する化合物群BaIrSi2, BaRhSi2の非対称局所構造歪みは大きく相当量のASOCフェルミ面分裂が期待されるものの、それのみでは異方的超伝導は発現しないことが明らかになった。
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