研究課題/領域番号 |
19K03758
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
河本 充司 北海道大学, 理学研究院, 教授 (60251691)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | NMR / 柔粘性結晶 / 分子運動 / 誘電異常 / 同位体置換 |
研究実績の概要 |
近年、新しいタイプの強誘電体として球形の永久双極子をもつ分子キヌクリジウムを用いた物質が注目を持たれている(Harada et.al. Nature Chemistry 2016)。高温の常誘電相では、分子は高速回転をしているが、低温の秩序相では、分子の運動の自由度は失われ電気双極子の方向が揃うことによる秩序・無秩序型強誘電体と分類できるが、有機分子特有の柔らかさにより、歪みによっても強誘電特性を制御できる“柔粘性強誘電体”という特徴のある性質があり、今後の応用を含めて関連物質の探索が進んでいる。しかし、①強誘電性の発現に関与する”分子の運動の自由度”に関する研究例はほとんどない。分子の運動の自由度と強誘電性発現のメカニズムを解明することにより新たな分子の候補やデバイスとしての応用に指針を与えられる。 分子運動を核磁気共鳴を用いて研究するために試料に関して窒素部位のD置換体を作成してD-NMRを行う。このためのD置換体の合成を行い試料の同位体置換をチェックする段階まで進めることができた。D-NMR を行うために新規NMRシステムの整備を行い,高温での測定のできるNMRプローブを作成し、温度制御等を検証している。 これと並行して同位体効果の検証を目的とした完全重水素置換キヌクリジンの合成ルートの開発を開始していくつかの候補となるルートを分子科学研究所のナノプラットフォームと共同研究の形で詰めることができた。その過程で分子運動の形態を系統的に調べることのできる部分置換の分子も合成可能であることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
試料に関して窒素部位のD置換体に関しては中間体作成まで終了しているが最終の結晶の精製まで進んでいない。これと並行してキヌクリジンの全重水素化のプロジェクトを分子科学研究所と共同研究でスタートさせた。全重水素化により同位体効果が相転移温度や誘電特性に期待される。この全重水素化は有機合成的にも挑戦的なテーマである。さらに全重水素化キヌクリジンを用いることで窒素部位のみをH置換しその他を重水素化した塩を得ることができ、このH-NMRからも重要な知見が得られるものと期待される。 新たに学習院大学から移管したマグネットを使用するためNMR測定用のプローブが必要でその設計、製作が予定より遅れていたが、現在、温度制御系の安定性などを信号が確認されている既知試料での検証実験を行っている。 また、磁性イオンを用いたフェロエレクトリックな効果を狙った試料に関しては、 FeCl4 を用いた塩の単結晶の作成に成功した。室温での格子定数の測定を行った結果、低対称相と思われる相がReO4塩とは異なった構造であることがわかった。構造解析に関して測定を計画中である。 年度末、コロナ感染症の影響で学生、スタッフの大学での研究が制約されておりD置換体塩の作成、評価を含む実験のスケジュールが確定できない状況である。これにより当初の計画に対してやや遅れている状況である。また、本申請以外のエフォートが当初見込みより多く取られた点も原因の1つと考えられるがこの点は、現在は解消している。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度、窒素部位のみを選択的に重水素化した塩は、本年年度中に速やかに結晶を作成して用意したNMRプローブとマグネットでD-NMR を相転移の前後でスペクトルとT1の測定をする。誘電異常を示す低対称相を比較することで分子温度の変化を検証しそのメカニズムを明らかにする。 全重水素化キヌクリジンの合成法を確立し、物性測定に十分な量を確保する。この重水素体とDReO4 により、完全重水素化キヌクリジウム塩を合成し、結晶構造や誘電率の測定など物性測定を行い重水素効果について検証する。 また全重水素化キヌクリジンをHReO4と反応させることにより窒素部位のみに水素を残した塩を作ることができる。これの1H-NMRと対照物質である窒素部位のみを重水素化した塩の2D-NMRを比較することでさらに詳細な情報をえることができる。 全重水素の合成ルートで3回軸上にない炭素に結合する一部の水素をHのまま残す同位体も作成可能である。これは3回軸まわりの回転の挙動に関して情報を提供することができるものでこの同位体の合成も視野に入れている。 磁性イオンを用いたフェロエレクトリックな効果を狙った試料に関しては、 FeCl4 を用いた塩の単結晶の作成に成功したが、その構造や相転移に関する知見をえるために構造解析および高温相の探索を構造、誘電特性をもちいて行い、さらにSQUIDを用いた磁気測定からフェロエレクトリックな効果の存在に関しても検証していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末のコロナによる学会キャンセル、出張自粛等で次年度使用額が生じました
|