研究課題/領域番号 |
19K03759
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野嵜 龍介 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00180729)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガラス転移 / 過冷却液体 / アフファ緩和過程 / 広帯域誘電分光 / 複雑液体物理学 |
研究実績の概要 |
本研究において要となる実験は、ガラス転移温度付近における過冷却液体のα過程の誘電分散を、μHz~1Hzにおいて精密に測定することである。各温度における実験に要する時間は、最大で200万秒にもなる。そのために、初年度は温度管理システムの構築とその調整(長時間安定制御)に重点を置いた。市販の低温恒温温調器を改造し、その中に試料を挿入した誘電セルを含むクライオスタットを設置し、それ全体の温度を制御することで、試料温度を20万秒の間0.1K程度の変化に抑えることに成功した。この時間は、α過程の誘電緩和周波数が10~100μHzにおける誘電分光測定に相当し、過去の測定から見積もられる緩和周波数の温度依存性から予想されるエラーが20%程度に収まり、緩和周波数の対数を議論する実験では、十分高精度な誘電分散測定が可能であることを意味している。試料にソルビトールを用い、265Kにおいて従来型の誘電セル(電極間隔固定型)を用いた実験を3回行った結果、再現性の良いデータが得られた(誘電緩和周波数は約100μHz±20%)。 一方、過冷却状態の試料に力学的ストレスを与えない誘電セル(電極)を開発するために、様々な構造の電極を用いて実験を繰り返した。液体試料をセルにインストールする際は温度を上げて粘性係数が小さい状態で行う必要がある(ソルビトールの場合、約80℃)。その状態で電極間隔を固定しないでおくと、電極から液体が流れだし両極が接触してしまう。しかし、液体をインストール後に電極温度が下がると(約30℃)、電極間隔はほとんど減少しない。この条件を、力学的ストレスを排除した状態とみなし、繰り返し実験を行ったが、再現性に問題があることが分かった。現在、原因を調査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、初年度中に「試料に力学的ストレスを与えない誘電セル(電極)」の設計を終える予定であったが、試料液体の広範囲な粘性係数に対応できる電極の開発に苦慮している。可動にしたPTFEスペーサーを用いる予定であったが、電極をクライオスタットに設置し、測定開始状態において試料をアニールしなければならず、クライオスタット外部から強制的にスペーサーを動かすメカニズムを考案中である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に大きな変更は予定していない。 新型コロナ対策の影響を受けて、実験室の使用に関して若干の制限を受けているが、実験装置(操作系統)の消毒や3密回避の感染拡大防止等を実施し、着実に研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の内定交付金(直接経費)の範囲内で予定していた設備備品(小型超低温恒温器)が購入できなかったので、急遽、旧式の恒温器を修理・改造して使用することになった。そのために、経費の次年度使用が生じている。この経費は、今後の恒温器の維持管理・修理に必要である。
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