研究課題/領域番号 |
19K03760
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
羽鳥 晋由 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (00283036)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞骨格 / 中間径フィラメント / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
細胞内において細胞骨格タンパク質が自発的に指向性運動することや,規則的な構造を形成する機序については不明な点が多い.この問題に取り組むための方法として,精製された細胞骨格タンパク質やモータータンパク質を用いた顕微鏡下での運動再構成法がある.近年このような基本要素から細胞様の組織再構成を目指す研究が活発化している.本研究では,細胞骨格の要素であるアクチン線維および中間径フィラメントに焦点を当て,異種タンパク質の混合状態から,枯渇力・重合 力・弾性力・駆動力によって発生すると予想される配向や組織化の経時変化を明らかにすることを目的としている. 油中水滴法によるオイル内の数十マイクロメートル径の液滴空間内にデスミンやアクチン分子を存在させ,この細胞サイズ空間での挙動を調べた.アクチンおよびデスミンのフィラメントへの集合はMgCl2とKClの添加により開始した.蛍光顕微鏡下で実時間観察するために両タンパク質に異なる蛍光色素を直接結合させて標識した.このような研究プランにより,ふたつの新規の現象を見出した.ひとつめは,デスミンの重合過程で液滴が変形し,液滴から樹状突起状の突出が認められたことである.ふたつめは,デスミンの重合過程でデスミンフィラメントとアクチン線維との間の共局在を示したことである.いずれの現象も予めデスミンフィラメントを形成させたときよりも,デスミンオリゴマーからフィラメントへ集合させた場合に顕著であった.これらの結果はデスミン中間径フィラメント形成による細胞形態への能動的な作用を示唆する.本研究成果は国際専門学術誌Cytoskeletonにおいて発表された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の大きな目標のひとつであった中間径フィラメントの細胞サイズ空間への作用とアクチン線維との空間内局在性に関する知見は得られた.この調査当初に想定されていなかった中間径フィラメントとリン脂質膜との間の相互作用の可能性が浮上した.さらに大きな進展として,デスミンのシングルフィラメントの蛍光顕微鏡観察のための条件が決定できた.アクチンのシングルフィラメントの蛍光観察法は35年前に開発され,アクチンの集合の性質やモータータンパク質との力学反応の解明に大きく貢献してきた.一方で中間径フィラメントでのこのような観察は限定的であり一般化されていない.それゆえ,本研究によって新たにシングルフィラメントレベルでの相互作用を調査する基盤が整った.
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今後の研究の推進方策 |
当初目標である,モータータンパク質ミオシンを含む能動的運動要素への中間径フィラメントの及ぼす効果や組織化への可能性について研究を進める.蛍光顕微鏡に近紫外光レーザーを導入し,caged ATPを用いて瞬時にミオシンを活性化させる系を構築する.その一方でリン脂質とデスミンとの間の相互作用の可能性が浮上したことから,リン脂質の種類とデスミンの集合や凝集との間の関係の調査も視野に入れる.細胞膜や小器官膜への働きは細胞機能の変調に重要であり,中間径フィラメントが関与する疾患と関係するかもしれない.加えて,油中水滴内にリポソーム小胞を含んだ場合にデスミンやアクチンのフィラメントがどのような局在性を示すのかを調査する.デスミンのシングルフィラメントの観察が可能になったことから,シングルフィラメントでのアクチンとデスミンの間の相互作用の調査も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
差引額が極少額であり,今年度に使用する必要がなかったため.
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