研究課題
役目を終えた薬剤の多くは、肝臓細胞の小胞体膜にある酵素シトクロムP450(CYP)で酸化代謝される。その結果、水に溶けやすくなり尿とともに体外に放出される。CYPの活性部位に達する前に、薬剤は一度、小胞体膜の疎水部へ入り込む。小胞体膜は、細胞内の他の小器官の膜と比較するとコレステロール濃度が低い。これが、薬剤が小胞体膜に集まることに関係しているらしい。以前、哺乳動物の主要なリン脂質ホスファイジルコリン(PC)を主体とするモデル膜系実験で、CYP基質薬クロルゾキサゾンはコレステロールの濃度が高くなると膜に侵入しづらくなることを明らかにした。今回、哺乳動物の生体膜で2番目に多いホスファイジルエタノールアミン(PE)で検討を行い同様な結果が得られた。その成果をまとめ論文発表した(オンライン公開済み)。コレステロールが上記のような作用を示すのは、コレステロールの添加により膜の分子充填が密になり、薬剤が膜内に侵入困難になるためと推定している。コレステロール生合成過程の前駆体で、進化的にも祖先分子と考えられているラノステロールでも、コレステロールと同様な効果持つのかを検討した。多くの生体リン脂質では、2本の脂肪酸側鎖の内、一本は二重結合を持つ不飽和脂肪酸で、もう一本は飽和脂肪酸である。このような混合鎖を持つPCを主体としたモデル生体膜系で検討した結果、祖先分子のラノステロールは、コレステロールが示す効果よりも遥かに低い効果しか示さないことが分かった。ただ、2本とも不飽和鎖のPCでは、予備的であるが、やや異なる結果も得られている。ラノステロールが酸化されることで、コレステロールが生合成される。コレステロールをさらに酸化して得られる酸化コレステロールでも、効果が低下することが分かっている。コレステロールが最も効果的であると推定される。
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Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Biomembranes
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Journal of the Physical Society of Japan
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