研究課題/領域番号 |
19K03764
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平岩 徹也 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 客員共同研究員 (20612154)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞集団遊走 / 数理モデリング / 数値シミュレーション / データ解析 |
研究実績の概要 |
まずは昨年度に引き続き、互いに多彩な細胞間コミュニケーションを行う遊走細胞が集団でいかなるダイナミクスを示し得るかを、集団運動の数理モデルに基づき理論的に解析した。特に接触追尾(Contact following)と接触遊走抑制(Contact inhibition of locomotion)や接触遊走牽引(Contact attraction of locomotion)を行う場合の数値解析を重点的に行った。結果、過去の文献等にみられる細胞性粘菌やその変異株が示す多彩なパターンが各種コミュニケーションの強さを制御するだけで再現できることを見出したのみでなく、蛇状の細胞集合体が絶えず動き回りつつ生成消滅融合を繰り返すという極めて動的パターンがあることも発見した。また、その状態で、細胞たちが方向性のある外部刺激に対し集団で効率良く応答できるようになることを発見した。新奇な細胞集団遊走の機構を発見したと言える。本結果は諸学会・セミナー発表や査読付き学術誌(Hiraiwa 2020 "Dynamic Self-Organization of Idealized Migrating Cells by Contact Communication" Physical Review Letters)にて公表され、反響を呼んでいる。 また、その数理モデルと、上皮細胞組織の構造を記述するための数理モデル(バーテックスモデル)を組み合わせることで、近年多くの実験が行われている上皮細胞集団の基盤上での遊走の数理モデルを構築し、その数値解析を行った。結果は査読付き学術論文に投稿準備中である。 さらに、同じ数理モデルを発展させることで角五氏ら(北大化学)による微小管滑走アッセイの実験と比較可能なシミュレーションが可能なことも見出した(査読付き学術誌に投稿中。プレプリントについては進捗状況欄を参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ここまで、孤立遊走細胞集団の動的秩序形成の数値計算およびその生物実験の結果との比較の研究を行い、それぞれ既に査読付き学術誌から出版されている(Hiraiwa 2020 "Dynamical ordering of idealized migrating cells" Physical Review Letters)(Hayakawa, Hiraiwa, Wada, Kuwayama and Shibata 2020 "Polar pattern formation induced by contact following locomotion in a multicellular system" eLife)。また上皮細胞の集団遊走モデルの構築と数値計算もおおよそ完成し、査読付き学術誌への投稿準備中である。これらのことからまず、計画した研究は十分に進展していると考えられる。さらに加えて当初の予想を超えた発展として、同じモデルの数理の枠組みを拡張・適用することで北大化学の角五らのグループによる微小管滑走アッセイの実験と比較可能な数値シミュレーションが可能なこともわかった(査読付き学術誌に投稿中。対応するプレプリントがHiraiwa, Akiyama et al. 2021 "Mono-polar clustering of self-propelled particles through left-right asymmetry" arXiv 2101.02130で閲覧可能である)。以上を総合して、計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って研究を進める。1つ目の課題である「孤立した遊走細胞が集まった際の動的秩序」の数理研究は完成し、2つ目の課題である「上皮細胞集団の遊走の2層モデル」もその基礎数理モデルは完成しているため、3つ目の課題である「多細胞生物現象への応用例の提示」に進む。同時に2つ目の課題の応用例として、本数理モデルにおける癒傷現象の解析を行う。また、本理論の結果と実験データとの比較をより定量的に行うことができるように、機械学習を用いた細胞遊走アッセイデータ解析についても、シンガポール国立大学メカノバイオロジー研究所の研究員らと協力して導入を進める。 加えて、進捗状況欄で記載の通り、本モデルの数理の枠組みのさらなる汎用性も明らかになった。微小管滑走アッセイの実験との比較をさらに行うだけでなく、より多くの現象を説明できるようになる可能性が無いかを、情報交換や共同研究を通じて、広い視野を持って探っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、学会参加や研究者招聘が実施不可能になったため
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備考 |
(1)所属研究所(本務先)による公式の紹介ページ。 (2)申請者個人のホームページ。 (3)申請者が本務先で主催する研究室のホームページ。
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