研究実績の概要 |
遊走細胞が互いに細胞間コミュニケーションを行うことで生み出すダイナミックな集団挙動、いわゆる動的自己組織化という現象について理論的に調べている。本研究課題では、先行研究で構築した細胞集団遊走モデルを基に、そこに多彩なコミュニケーション様式を仮定した際に、如何なる集団挙動が引き起こされるかを理論的、数値的に解析した。 まずは接触追尾を行う場合の数値シミュレーションを行った。ある種の細胞性粘菌の変異株が自発的に示す伝搬密度波パターン(理研BDR柴田研究室の実験結果)が接触追尾の効果により再現されることを見出した。柴田研究室に協力し実験と理論の比較を行った(Hayakawa, Hiraiwa et al. 2020 eLife)。また、多様な遊走細胞種で見られる他のコミュニケーション様式である接触遊走抑制や接触遊走牽引も行う場合の集団挙動についても研究した。これらが合わさると極めて多彩な動的自己組織化を示し得ることを明らかにした(Hiraiwa 2020 PRL)。また、動的自己組織化に伴って細胞集団が方向性のある外部刺激に対して自然と集団で効率良く応答できるようになることも発見しており、最終年度および現在はその方面の研究を進めている。 また、生き物の中での動的自己組織化に理解を進めるため、上記数理モデルの発展により上皮細胞集団の遊走の数理モデルを構築し、その数値シミュレーションを行った。結果、特に、動的自己組織化により狭い領域における上皮細胞の運動性が著しく向上することを見出した(Hiraiwa 2021 EPJE)。 さらに、同じ数理の枠組みを活用し、角五氏ら(当時北大化学)による微小管滑走アッセイの実験(Afroze, ..., Hiraiwa, ... 2021 BBRC)と比較可能なシミュレーションが可能なことも見出した(Hiraiwa et al. 2022 PCCP)。
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