最終年度の研究においては、生物群集行動にみられる周期パターン創発の記述に有効な対称性分岐理論をもとにして、無生物である疲労金属の内部構造で自律形成される周期パターンの形成メカニズムを理論的に考察した。その結果、生物の体表に発現するチューリング模様(斑点模様や縞模様)と、繰り返し負荷を受けた金属内部で発現する疲労転位構造を統一的に記述し、各パターンの発現条件に物理的な解釈を与えることができた。これと並行して、他機関の研究協力者らの主導のもと、複数種のイネに対する力学実験と形態測定を通じて、イネの倒伏耐性に対する稈径と節間長分布の相関関係を解明した。 研究期間全体を通じては、当初の予定だった中空茎植物の力学機能探索を含め、生物・無生物を含む幅広い研究対象に対してその機能性ならびに形態との相関関係を考察することができた。生物種においては、タケとイネの中空擬周期構造に関して実験と理論の両面からその力学的優位性を明らかにしたほか、マスクメロン表皮に現れる網目模様の形成過程と果肉品質との相関関係や、驚異的な葉面積を支えるフキの茎の力学的安定性などを俯瞰的に考察することができた。また無生物種においては、中空擬周期構造を有するナノカーボン材料の特異電子物性や、疲労金属の内部で自己組織化される転位の擬周期パターンなどを、数理生物学的アプローチから記述するという学際的な理論研究を遂行し多くの成果を得ることができた。
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