研究課題/領域番号 |
19K03771
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
岩下 拓哉 大分大学, 理工学部, 准教授 (30789508)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 局所力学量 / 異常検知 / 分子動力学シミュレーション / 第一原理MD / ガラス / 液体 / 粘度 |
研究実績の概要 |
弾性変形下にあるガラスの破壊の起点を特定にするために,不規則構造をもつガラスと液体を対象としたシミュレーション研究を実施した.まず,はじめに着目した点は原子レベルの局所力学量であり,液体やガラス内部で局所圧力やせん弾応力,弾性率などが互いにどのような相関を持つのかについて検討を行った.そこで,計算機で作成したガラスに外力を印加し,得られた多変量の力学量変化に対して異常検知の手法を用い,その異常値として局所構造変化を特徴づけた.さらに,どの力学量変化が主に異常値に寄与しているのかを調べたが,特定の局所パラメタが寄与しているような強い相関を見出すことはできなかった.しかしながら,異常と判断された原子群は,空間的にクラスターを形成していることがわかった.また,弾性変形の量子効果を探索するために第一原理シミュレーションを用いたガラス変形を実施し,変形過程における電荷移動の効果を明らかにし,Physical Review Letters 誌に掲載された.
また,液体における局所力学量とダイナミクスの関係性も不規則構造の励起に関わる重要な問題であり,局所圧力とせん弾応力の粘性緩和の間の強い相関を見出した.圧縮環境にある原子は,引っ張り環境にある原子よりもせん断に対して不安定になりやすく,緩和が促進されることがわかった.大きな圧縮環境にある原子は,同時に大きな局所ミーゼス応力状態にあることが要因の一つであると示唆される.本研究成果は,JOM誌に掲載された.
これまでに局所力学量と局所粘性緩和の間に成り立つ相関を発見したが,その構造的起源の探索が今後の課題である.さらに局所粘性緩和の温度依存性はほとんどなく,ベータ緩和に相当する構造を観測していると考えられる.一方,巨視的な粘度が急激に増大することから,ここで得られた知見を局所構造相関から,中距離相関へ拡張していくこが今後の課題である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり局所力学の時系列データを取得が完了したので,おおむね順調に進展している.さらに,豊田工業大学の研究協力者との共同研究によりガラスの変形に関する量子的な観点からの重要な結果を発見することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ガラスや液体において得られた局所力学量の時系列データを用いて,クラスタリングなどの機械学習の手法を応用に注力を注ぐ. また,局所的な弾性エネルギーの観点から不規則構造における構造とダイナミクスの相関を確立する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は,2020年3月に参加予定だったアメリカ物理学会が,コロナウイルスのため中止になったためである.今年度の旅行計画が可能な場合は,国際学会参加や国際研究協力者の下へ研究打ち合わせのために使用する.それが困難な場合は,論文のオープンアクセス化などの執筆活動にかかる費用などに使用する.今年度デスクトップコンピュータを整備し,解析可能な環境を構築できたために,次年度は解析ソフトなどの導入に使用する.また,今年度と同様に,スーパーコンピュータへの利用のために予算を使用する.
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