今年度は,ガラス形成物質であるZrCu系の金属ガラスの力学変形と酸化物ガラスであるシリカの粘度研究を通して,局所構造変化の性質に関するシミュレーション研究を推進した. ZrCuガラスの破壊研究では,古典分子動力学シミュレーションを用いた.絶対零度の環境下で,微小な剪断ひずみをガラスへかけてゆき,応力ー歪曲線が不連続なジャンプを示す最初の特異な状態に着目した.応力ー歪曲線に不連続な飛びができたのち,逆方向に剪断をかけてガラス構造を初期構造へ戻すと,応力ー歪曲線中にヒステリスが現れ,元の状態に戻ることがわかった.つまり,応力ー歪曲線は,一見不連続な応力緩和を示しているが、その緩和は可逆過程であり,つまり,破壊の起点は可逆的な局所塑性という性質をもつことがわかった.このヒステリス間の状態遷移を調べるためにNBE法を用いて,二状態間のエネルギー障壁を見積もることができた.そのエネルギー障壁の低さから,有限温度のガラス状態はエネルギー的に縮退している直接的な知見を得ることに成功した.ガラスの変形起点に関する本研究は豊田工業大学の研究協力者とともに進めた. また,第一原理計算を用いたZrCuガラスの弾性変形研究では,第一原理原子応力から回転不変量であるvonMises stressの変化量と電荷の移動や電子状態に基づいた化学結合の変化との関係性について調べた.第一原理計算に基づいた変形計算は,新規性が高く不明な点が多い.結果,剪断変形においては局所力学変数と化学結合間の間に強い相関は見られないことがわかった. さらに,典型的なガラス形成材料であるシリカのモデルを用いて,粘度と局所構造緩和の関係性を調べた.液体金属で見出した粘度と局所構造変化の関係性を分子材料であるシリカガラスへ拡張し,その関係性が材料不変であることを発見した.
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