研究課題/領域番号 |
19K03772
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
千葉 文野 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (20424195)
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研究分担者 |
秋山 良 九州大学, 理学研究院, 准教授 (60363347)
勝本 之晶 福岡大学, 理学部, 教授 (90351741)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポリオレフィン / アルカン / 液体分離 / 枯渇相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では、高分子isotactic poly(4-methyl-1-pentene) (P4MP1)が、各種ノーマルアルカンの混合溶液から長鎖アルカンを選択的に吸蔵する特性を発見し(Chiba et al., Langmuir 2019)、これを液体分離に活かすことを目指している。2020年度は、分子が選択的に吸蔵される結果、膜を透過する分子に選択性が生じることを、動画に撮影することに成功した。これは、2種類の液体のうちで片方の液体の方が膜を優先透過し、液体がバルクで移動している動画であるので、誰の目にも優先透過性(優先吸蔵特性)が明白であり、広い分野の研究者に対しインパクトが期待できる結果と考えている。この結果の投稿が遅れているが、その原因は、当該の動画が本当に選択的な透過を意味するのかどうか確認するため、追加実験を行う必要があったためである。新型コロナ感染症の流行により、大学が閉鎖されていて追加実験の実施が延期されたが、2020年度下半期に当該の実験を行うことができ、選択的透過性が確認できたので現在投稿準備を進めている。 また、共同研究者の福岡大勝本教授の研究室にて、クロマトグラフィー用カラムに我々の作製した高分子フィルムを詰め、中圧クロマトグラフィーによって液体分離の可能性を探索する実験を、九大の秋山研のご協力も得て行うことができた。結果は予想していたような分離は明確には見られず、少なくとも予想とは逆の順に溶出している可能性が示唆された。しかし、なぜ逆順になるのか大変興味深く、今後の研究が必要なところである。 期待した結果と異なる部分もあるが、申請書に記載の2年目までの計画内容は概ね実現できており、それ以外に、動画撮影による選択的透過性についての実験では予想を上回る結果を得ている部分もあり、全体としては当初の計画よりも進展したといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新型コロナ感染症の流行により、実験ができない期間はあったが、当初の予想を上回る結果を得ている実験があるため、このように判断した。中圧クロマトグラフィーについては、期待したような結果になっていない。しかし、当初の計画は実現したうえで、選択的な透過性については動画により誰が見ても分かり易い結果となっているため、インパクトとしてはより大きいとも期待ができ、計画以上の進展との判断となった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の上半期のうちに、まずはこれまでの結果、特に動画取得部分について投稿する。現在執筆中の論文では、タイムラプス撮影による動画を主な結果として記述し、Supporting Informationに動画を添付する。また、国際会議における発表を2件予定している。7月のLiquid Matter Conferenceにて発表を行うほか、11月のPOLYSOLVAT-13において招待講演を行う。 吸蔵にともなう構造変化を小角広角同時測定により明らかにしたく、SPring-8の2021B期の課題として応募することを検討している。まずは2021年4~5月に、ビームライン担当者に予備測定結果を見て頂き相談する予定となっている。 また、2021年度も共同研究者の勝本、秋山と協力して引き続き中圧クロマトグラフィーの実験を継続する。 選択的透過の実験に関しては、シクロヘキサンとベンゼンなど、分離の難しい組み合わせについて、どの程度うまくいくのかを定量的に明らかにする。これにはガスクロマトグラフィーが不可欠であるが、千葉研究室では装置を持っていないので、福岡大の勝本研のご協力を得て進めて行きたいと考えている。 勝本研におけるガスクロマトグラフィーを用いた実験など、出張を前提とした計画があるが、新型コロナ感染症の流行の具合によって、出張しての実験が難しい場合には、オンライン共同研究、つまり、実験の状況を動画で見せて確認・議論しながら進めて行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の流行により、主として以下の3種類の理由により次年度使用額が生じた。(1)上半期は大学の閉鎖により実験の遂行が困難となり一部の消耗品の購入を2021年度に延期することとなった。(2)(1)と同じ理由で論文の投稿が遅れたために英文校正費用が2021年度の支出となった。(3)出張が減って出張旅費が残った。 上記のうち(3)については、2021年度も新型コロナ感染症の流行がどうなるのか見通せないが、2020年度より、出張できない時には、インターネットを活用し共同で実験を進めようとしている。このため通信装置、特に軽量な例えばウェアラブルカメラを用いて、実験の様子をオンライン会議に配信しつつ議論しながら共同で実験を行うための環境を整えつつある。こうしたオンライン化のための費用もまた、2021年度に必要となると考えられる。 まとめると、(1)(2)については、そのまま2021年度に支出予定であり、(3)については一部オンライン共同実験を行うために支出予定である。
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