本研究は、固体基板にグラフトした結晶性高分子の結晶化と構造形成に関する実験結果から、結晶性グラフト鎖の性質を明らかにしようとするものである。シリコン基板表面に結晶性高分子であるpoly(ε-caprolactone) (PCL) 鎖をグラフトし、それを等温結晶化させて試料を作成した。そのとき、基板にグラフトする分子鎖の数密度および分子量を変化させて試料を作成した。その結果から成長速度の測定に最適と考えられる条件で試料を作成し、ラメラの成長速度の測定と解析に注力して研究を遂行した。またPCLの分子鎖を基板にグラフトさせないで高分子薄膜を作製し、そこでのラメラの成長速度を測定することで、グラフト膜と薄膜の結果を比較して議論した。得られた試料において等温結晶化で成長したflat-onラメラ(基板に対して平行なラメラ)の温度を徐々に高くして、それらの融解温度を測定することで、ラメラ厚と融解温度の関係を得て、その関係からグラフトされた高分子鎖の平衡融点を求めた。この解析過程では結晶ラメラの分子鎖折りたたみ面の表面自由エネルギーも得ることができた。ラメラ成長速度の測定結果では、測定するラメラによって速度が異なることが示され、温度依存性は信頼性が十分高いと考えられるものだった。この成長速度のデータを平衡融点のデータと合わせて解析し、ラメラの成長に影響するパラメーターを議論することができた。特に本年度ではPCLグラフト膜にpoly(vinyl butyral)を添加した場合、及びpoly(ethylene oxide)の薄膜における球晶成長速度の解析を行い、薄層における分子鎖の挙動について議論することができた。
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