研究課題/領域番号 |
19K03780
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
菅原 広剛 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (90241356)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁化プラズマ / 電磁界配位 / 電子輸送 / 非対称性 / 指向性 / 電子サイクロトロン共鳴 / モンテカルロ法 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
材料プロセス用弱電離プラズマの制御などに利用される諸種の磁界の効果が働く中での電子流の指向性や輸送係数の制御条件依存性について理論と計算機数値シミュレーションの両面から解析を行い,主に次の成果を得た。 1.直流磁界下電子群交流電界応答(理論):気体中の電子輸送論で衝突散乱モデルの簡素化のためしばしば仮定される一定衝突周波数モデルを用いることで直交交流電界直流磁界下の電子流を定量化する電子平均速度の時間変化の理論式が解析的に導出できた。同理論式により電子平均速度の時間変化が楕円ベクトル軌跡で表されることを示した。ベクトル軌跡からはホール偏向,電子サイクロトロン共鳴,磁気冷却効果といった物理現象が視覚的に読み取れ,陽な理論式表現により電磁界と電子衝突を定量化するパラメータへの基本的依存性が明確になった。理論的裏付けのある制御指針提示に繋がる成果として期待される。 2.直流磁界下電子群交流電界応答(数値シミュレーション):材料プロセス用実気体(フッ素,アルゴン,四フッ化炭素)中の電子平均速度の磁界下交流電界応答をモンテカルロ法により算出し,上述の楕円ベクトル軌跡の形で表現した。フッ素は理論モデルによる近似がよく当てはまった。アルゴンと四フッ化炭素は各々固有の電子衝突断面積構成に起因する電子散乱の影響で楕円ベクトル軌跡が理論モデルから系統的にずれた。理論モデルを比較基準とすることで各実気体中の電子輸送過程を特徴付けられる可能性を示した。 3.プラズマへの電力投入に対する磁界の効果の解析:実機に近い条件として磁化プラズマ容器器壁付近にプラズマシース電界がある場合を想定し,電子のエネルギー獲得過程をモンテカルロ法で計算機解析下。シース電界と磁界の作用で器壁近傍の電子流にはE×Bドリフト方向への指向性が生じ,これと交流誘導電界との協調下で電子は統計的過程によりエネルギーを獲得することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画とは解析の順序が前後することとなったが,研究計画中段で取り組む予定であった交流電界に対する電子平均速度の応答特性解析について新たな着想が得られ,簡素化モデルに基づく理論的解析解を導出できたことに加え,それを基に新たなデータの表示法・評価法を構築できた(研究実績の概要1,2)。研究計画中で課題・着目点として挙げた項目のうち,特に実用的なプラズマ装置によく現れる電磁界配位である直交交流電界直流磁界下における電子流を定量的に表す電子平均速度について,ホール偏向,電子サイクロトロン共鳴,磁気冷却効果といった諸現象の発現が視覚的に表示され,理論に基づき定性的・定量的解釈ができるようになった点は,今後の解析においても洞察を得て議論を深める上で有用である。 また,研究の後段として予定していた実機の一部を想定した系における解析も行い,電子輸送の指向性・非対称性が作用する電子のエネルギー獲得過程についてシース電界が寄与することが解明された(研究実績の概要3)。 これら初年度の研究成果は国内学会および国際会議において発表され,査読付き論文として学術誌にも掲載されたことから,おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
電磁界配位モデルについて簡単なものから実際的なものへ漸進的なモデル拡張を企図した計画とはモデル別の解析順序に前後が生じたが,計画に挙げた他のモデルについても順次解析を行っていく。先にやや実際的なモデルで成果・知見が得られていることから,簡単なモデルに戻る際には着目する各種現象の本質や発現の仕組みの特定と,その現象が依存する条件等の抽出に解析の力点を置く。 初年度の成果のうち,気体中の電子輸送過程の評価法に関しては,本計画の範疇で派生・発展した課題として引き続き解析を行い,その利用法や電子輸送過程の普遍性ないしガス媒質毎の個性などの議論に向けて知見の蓄積に努める。 計画で着目している電子サイクロトロン共鳴が関わる電子のエネルギー獲得過程や,電磁界配位,指向性など他の要素の影響との関係についても解析の際に注視する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費,学会等参加費,論文掲載料など,時価や従量制であるため計画当初の見積りで額を精確に予見できない支出に増減があり,また,学会等の中止・不参加・発表先変更などもあって,結果第1年度分に若干の残額が生じたものである。物品購入に関しては第2年度冒頭の時点では大きな計画変更の予定はないため,残額は次年度配当の経費と合算し,成果が得られたときに不足しがちな成果発表関連の経費に主に充当することで有効に使用する。 なお,成果発表に関しては,新型コロナウイルス感染症対策のため,国内外の学会・国際会議がこれまでとは異なる様態で開催される場合,延期・中止となる場合,あるいは海外渡航等において制限を受ける場合,などが考えられる。研究の進捗状況やその時々の状況を踏まえ,先の見通しに基づいて可能な成果発表方法を選択したり状況改善時に備えたりと,研究の維持継続・進展や研究力強化のための情報の発信と収集の観点からも適切・必要と考えられる措置をとる。
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