研究課題/領域番号 |
19K03782
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
斉藤 学 京都大学, 工学研究科, 教授 (60235075)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 準安定状態寿命 / イオンビームトラップ / レーザー励起 / 分光計測 / プラズマ |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、レーザービームとイオンビームをトラップ内で一直線上に合流できるシステムの構築を目指した。合流できたことを確認するために、C10H8+イオンのレーザー光吸収による中性粒子解離反応を利用した。C10H8+イオンを用いたのは、本トラップにC10H8+イオンビームを高蓄積することが可能だからである。レーザーは、C10H8+の光吸収領域に対応する波長の可視光レーザーを用いた。光吸収によって生成するC10H8+からの中性解離粒子はトラップ電場では閉じ込められず、トラップ外に出てくる。この中性粒子をマイクロチャンネルプレートで計数した。中性粒子は残留ガスとの衝突によっても生成するため、レーザービームをイオンビームに合流させた場合と、合流させない場合のそれぞれの中性粒子数を測定し比較することで、光吸収解離からの中性粒子数を求めた。 イオンビームはトラップの中心軸付近で直線運動をしていると予想されるので、中心軸に沿う形でレーザービームをトラップに入射させた。しかし、C10H8+の光吸収解離からの中性粒子を検出することができなかった。これは、イオンビームが中心軸上を直線運動しているのではなく、わずかに中心軸からずれた位置で直線運動しているためであると考えられる。 そこで、レーザービームを中心軸からずらしてトラップに入射する実験を試みた。レーザーのトラップへの入射口は細いパイプ(直径4mm, 長さ44mm)状をしており、その範囲でレーザービームの入射位置と入射角度を変えて測定を行った。しかし、調整できる範囲内のレーザービーム入射で、中性解離粒子を検出することができなかった。 レーザービームの入射位置と角度の調整範囲をさらに拡大するため、レーザービーム入射口の改造が必要である。今後、装置の改良を行い、レーザービームとイオンビームの合流システムの確立を早急に目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度の研究計画では、レーザービームとイオンビームの合流システムを完成し、テスト実験によってビーム合流を確認することが目標であった。しかし、両ビームを合流させることができなかった。主な原因は、実験の結果から考えて、シミュレーションで予想したトラップ内のイオンビーム軌道が予想よりわずかにずれているためであると考えられる。この改善に向けては設置したシステムの改良が必要であり、そのために年度内で目標を達成することが時間的に困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、レーザービームとイオンビームの合流システムを早急に完成する。そのために、トラップに取り付けられているレーザービーム入射口の改良を完成し、ビーム合流のテスト実験を行う。テスト実験には再度C10H8+イオンビームを用いて、その光吸収解離で生成する中性粒子を測定することで、レーザービームとイオンビームの合流を確認する。 合流システムの完成後に予定通りに、光励起イオンから放出される脱励起光の分光測定システムを構築し、以下の方法で研究を進める。レーザー光によって励起したイオンの放出する光子を時間の関数として光電子増倍管を使って計数する。準安定状態イオンの蓄積数の時間変化は測定された光子計数率の時間変化に比例するので、得られた光子計数率の時間依存スペクトルより準安定状態の寿命を決定できる。測定光子の波長の選択はバンドパスフィルターによって行う。レーザー光の強度はパワーメータでモニターする。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存のレーザー装置での予備実験が予定通り進まなかったために、引き続いて行う実験に必要としていたレーザー装置の購入に至らなかった。本年度に生じた次年度使用額はこのレーザー装置購入のための費用である。次年度は、予備実験を終了するとともに、レーザー装置を購入して、レーザービームとイオンビームの合流によって目的の準安定状態イオンを作り出す研究を予定通り進める。
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