研究課題/領域番号 |
19K03783
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
宮本 賢治 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (00532996)
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研究分担者 |
畑山 明聖 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 名誉教授 (10245607)
星野 一生 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (50513222)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズマ / 核融合 / 加速器 / 重水素 / 負イオン源 / 数値シミュレーション / PIC法 / モンテカルロ法 |
研究実績の概要 |
本研究では、実機核融合用負イオン源や医療用加速器での重水素負イオン源について同位体効果と呼ばれる、水素放電プラズマの場合と異なる物理特性のメカニズムの解明を図る。特に負イオンと同時に引き出される電子電流の増加については、プラズマ生成領域のプラズマ密度増加が原因である事が実験的に示唆された。しかし、なぜ重水素化することでプラズマ生成領域においてプラズマ密度が増加するのかは分かっていない。そこで電子輸送解析用の大規模な数値シミュレーション(KEIO-MARCコード)と、その支援として水素と重水素の原子・分子衝突過程を考慮した0次元モデルによる解析の両方で研究を進めた。 まずKEIO-MARCコードによる数値シミュレーションでは、重水素化によって変化する物理モデル要素(非解離性イオン化反応、解離性イオン化反応、シースポテンシャル、クーロン衝突、解離性付着反応、振動励起反応、H2電子振動励起反応)を個別に試行した。この結果、特に水素と重水素の振動励起反応での増加率が最も大きく、約7 %の増加となった。物理モデル要素を個別に検証した密度増加率は約11 %であったのに対して、上記の物理モデル要素を全て導入した場合は約13 %の増加となり、密度増加に対して各物理モデル要素の相乗効果が現れた。次に0次元モデルについて、レート方程式に水素と重水素の振動励起状態に関わる相違のみを導入した。この結果、重水素化により密度が約1.7倍増加した。これは振動励起準位を介した水素と重水素のイオン化チャンネルの違いが重水素からのイオン化反応速度係数を増加させることを意味する。 KEIO-MARCコードによる数値シミュレーションおよび0次元モデル共に、重水素化によって密度が増加する事が示された。特に、これまでの検討範囲内では水素分子の振動励起状態の相違が密度増加に対する寄与が大きいことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
KEIO-MARCコードによる数値シミュレーションでは重水素化によってプラズマ密度が増加する事が示されたが、実験結果の約3倍程度とは未だ大きく乖離しており、更なるモデル化の改善や検討を要する。また0次元モデルでは水素分子の振動励起状態の相違以外に、正イオンの輸送損失時定数により実験結果に近い結果が得られている。しかし、拡散モデルの違いにより正イオンの輸送損失時定数の値が変わってくるため、今後、実験結果や数値シミュレーションとの比較によりどの拡散モデルが最適であるかを検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
水素と重水素の正イオンの輸送損失時定数の違いが、プラズマ生成領域のプラズマ密度の違いに顕著に寄与することが、0次元モデルにおいて示されている。そのため中性粒子等の衝突による拡散や磁力線に沿った輸送などの正イオンの拡散・輸送過程を数値シミュレーションのモデル化に組み込むことで、正イオンの輸送損失時定数の違いによる影響を検討する予定である。その際に、どの拡散モデルが最適であるかを、実験結果や0次元モデルとの比較により検討する必要がある。また、電子温度などその他の物理パラメータが水素/重水素のプラズマ密度の違いに寄与するかどうかについて、引き続き0次元モデルによる検討を行い、適宜、数値シミュレーションのモデル化へ反映させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、1)研究者(研究代表者、研究分担者)がその他の業務に多忙であったこと、2)研究代表者の身内の不幸と1か月間の病気休養、3)水素/重水素のプラズマ密度の違いに起因する物理パラメータの特定に想定以上に時間を要したという3点が挙げられる。 次年度は、1)数値シミュレーションのモデル化の改善と数値計算の実施に必要な消耗品(メディアや事務用品等)の購入やスーパーコンピュータ年間使用料、2)研究打ち合わせや成果発表のための旅費、3)論文投稿費や学会参加費に使用する予定である。
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