研究課題/領域番号 |
19K03786
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
中村 龍史 福岡工業大学, 情報工学部, 教授 (40318796)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 輻射反作用 / LAD方程式 / 超高強度場 |
研究実績の概要 |
加速度運動を行う荷電粒子は輻射の形でエネルギーを放出する。多くの輻射現象において、輻射放出により荷電粒子に働く反作用力が電磁場によるローレンツ力に比べて無視できるため、荷電粒子の運動方程式に輻射放出に対する反作用力は入っていない。しかし、大型加速器中あるいは超高強度レーザー場中の荷電粒子に対しては、輻射反作用力をローレンツ力に対して無視することができなくなる。しかし輻射反作用力を考慮に入れた荷電粒子に対する古典電磁気学的な運動方程式はまだ確立されていない。その候補として考えられているのが、Lorentz-Abraham-Dirac (LAD)方程式である。しかしLAD方程式は時間の3階微分項を含むため、解析的に解を求めることが難しいだけでなく、それを数値的に積分することも非常に困難である。このため物理的な解を求めるために、LAD方程式の摂動展開近似により導出されるLandau-Lifshitz (LL)方程式や、新しい観点から反作用力を定義したMo-Papas方程式などの方程式が用いられることが多い。それらを用いて数値的に解を求める場合は、用いた方程式及び解の比較検討を行うことが重要となる。LAD方程式とその摂動近似式であるLL方程式およびその解については多くの研究が行われているが、その他の方程式についてはあまり進められていない。そこで本年度は、LAD方程式とこれまでに提案されているいくつかの方程式に対し、簡単な電磁場配位に対する電子運動の解析解を導出しその比較検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、LAD方程式とLL方程式、Mo-Papas方程式などのいくつかの方程式の解の比較検討を行った。具体的には、静的な強磁場と平面電磁波が共存する中での荷電粒子の運動に対する解析解を導出し、静磁場及び電磁場強度を変化させたときの解の振る舞いのを比較した。 その結果、先行研究にあるように磁場がない場合はLAD方程式とLL方程式は広範な電磁場強度領域でそれらの解が良く一致することを確認した。これに加え、静磁場を加えた場合でも解の一致は同様に良いことを新たに確認した。その他の候補である、Mo-Papas方程式およびFord-O'Connel方程式についても、同じ電磁場配位中での電子運動を解析することで解の比較を行った。いずれの場合も広範な電磁場強度領域において解は良く一致することが分かった。これらの解析解の差異が有意になる領域は、超高強度領域、すなわち量子電磁気学的な効果が支配的となる強度領域であることが示された。このため、本研究で考えた系においては、古典電磁気学的な方程式としてはその解に差異がないことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
LAD方程式において3階の時間微分を含む項はSchott項と呼ばれている。この項の空間成分は輻射場の運動量輸送に相当し、古典電磁気学で有名な輻射の公式であるLarmorの公式を用いて導出したものと一致する。Schott項の時間成分はSchottエネルギーと呼ばれている。このSchottエネルギーについては長い間議論が行われていたが、近年Schottエネルギーは輻射を放出する荷電粒子の近傍に、誘導場と輻射場の干渉場として存在していることが指摘された。このため、LAD方程式におけるSchott項の扱いの再検討が必要と考えられる。特に周期運動を行う荷電粒子の場合は、Schottエネルギーは近傍電磁場と荷電粒子間で定常的に交換されるてめ、その運動への寄与が無視できることも考えられる。運動方程式の時間成分のみでは運動を規定するには十分でないため、本年度いくつかの方程式において検討した解析解におけるSchott項の寄与を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度3月に開催予定であった日本物理学会が開催中止となり旅費が残ったため、来年度に繰り越す。
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