本研究は,固体試料へ高強度レーザーを照射した際に生じるレーザー物質相互作用現象における「固体の加熱過程」の理解を目指し,高強度レーザーが照射された試料内の任意領域の温度及び電離度を超高速に診断することを目的とする.これを実現するために,X線自由電子レーザー(XFEL)をプローブとした新しい計測手法を提案した.この手法では,高強度レーザー照射により加熱された固体試料へXFELを追加照射し,これにより発生するX線の分光スペクトルを取得し解析することで,XFELが照射された領域・時刻における物質状態を診断する. 本研究はXFEL施設SACLAにおいて実施した.研究期間の2年度目までに,本手法に最適化した試料を設計した.この試料では,固体中の所望する位置に温度センサとなる微小標的を設置し特性X線の発生領域を限定する.この微小標的の領域を適切に設計することで,本手法で信号となるXFEL照射に伴う特性X線の発生量を維持しつつ,ノイズとなるレーザー照射に伴う特性X線の発生量を最小限に抑制することに成功した. 最終年度には,この最適化された試料に高強度レーザーとXFELを同時に照射し取得されたデータから,微小標的の温度及び電離度の取得を試みた.その結果,XFEL励起によって微小標的から生じる特性X線のうち,非電離のKα線については明瞭に確認できた.しかし,電離Kα線及びKβ線については背景ノイズが大きく,解析に必要十分な信号対雑音比が得られなかったため,目指した加熱情報を取得するには至らなかった.問題となったノイズについては,分光されたX線ではなく,レーザー由来の電子やX線がX線検出器に直接または間接に到達しているものであることを本研究で確認した.これにより,検出器の遮蔽の強化によって信号対雑音比を改善されえることを明らかにした.
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