研究課題/領域番号 |
19K03791
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 貴彦 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90353440)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リチウム6 / 同位体分離 / 置換クロマトグラフィー / 大環状化合物 / コアシェル型吸着剤 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
吸着剤の調製について,リチウム同位体の吸着能を示す大環状化合物としてベンゾ15クラウン5を選定し,多孔質シリカビーズの細孔中において,ベンゾ15クラウン5を固定化した樹脂の合成に取り組んだ.令和2年度に提起された課題として,毒性の高いトリクロロ酢酸の安全な運用と,爆発性化合物の生成を避けるための水分除去の2つがあり,これらを解決するために,不活性ガス置換のグローブボックスを整備した.内容積がおよそ1 m3,ステンレス鋼製で,窒素ガス発生装置を用いたガス置換により,99%の窒素濃度を達成できた.また,内部に小型の加熱炉を設置し,シリカビーズからの水分除去の後,そのまま大気に触れることなく合成反応に移行可能とした. 置換クロマトグラフィー操作における課題としては,前端界面の位置検出および吸着帯内の濃度分布計測の困難が挙げられていた.そこで,カラム溶出液の電気伝導度の変化を測定する方法を考案した.電気伝導度計では,イオン種の同定や濃度の絶対値測定は原理的に不可能であるが,含まれるイオン種が限定されている条件では,電気伝導度の変化を破過曲線として得ることができる.予備実験として,リチウムおよびカリウムを含む溶液を用いて,電気伝導度測定を行ったところ,その濃度変化を捉えることができた.また,その精度は数値シミュレーションの結果と比較するのに十分であった. 令和2年度に開発した計算コードを用いて数値実験を行ったところ,濃度変化の大きい特定の条件下で,時間刻み幅を極端に小さくせねば数値的に不安定となり,合理的な計算時間内に解が得られない問題が生じた.そのため,数値計算のアルゴリズムを陰解法に変更した.リチウムの同位体分離においては,1価のイオンしか関与しないことから,イオン交換の平衡関係式を線形化することが可能であり,移流拡散方程式に直接平衡関係式を導入することで,計算を可能とした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案する新奇吸着剤の調製において,大環状化合物を固定化するための樹脂の合成が一番の難点であった.合成実験の習熟と,合成条件の選定については令和2年度に概ね完了している.その際,明らかとなった安全上の課題については,不活性ガス置換グローブボックスを整備することにより解決した.以上のように,本研究の核心となる吸着剤の調製については,当初の計画に無かった課題も解決しながら,順調に進展している. 置換クロマトグラフィー装置の準備においては,システムを構成する要素が整い,また,前端界面位置の検出手法の開発によって,本研究の特徴である極小のHETP値における置換クロマトグラフィー操作が可能となった. 置換クロマトグラフィーによるリチウム同位体分離のプロセスシミュレーションについては,数値実験の実施により,新たな課題を見出し,さらにその解決も進められており,進捗は十分であると考える. 以上のことから,研究の進捗により生じた新たな課題に対処することで,当初計画とは異なる部分があるものの,全体的には順調に進展していると自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
吸着剤の調製方法および実験環境は十分整えられたので,破過試験に供するために必要な量の吸着剤を早期に調製する必要がある.置換クロマトグラフィー実験についても装置環境は整えられた.この実験では,通常,溶出液中の同位体比分析に多大な時間を要する.そこで,吸着帯全体にわたる同位体比分析は割愛し,吸着帯前端と後端の試料のみについて同位体比分析を行うことで,時間短縮に努める.令和3年度に開発した電気伝導度計による破過曲線の測定では,即時に詳細なデータが得られるため,これに開発した数値解析手法を援用することで,吸着帯全体にわたる同位体比分布を精度良く推定できる.したがって,吸着帯の一部分の同位対比分析によっても,分離性能評価を行うことが可能である. 試行錯誤による研究計画の変更と,新型コロナの影響により,成果報告が滞っているため,最終年度にあたり,学術論文の執筆を中心として促進に努めたる.
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