研究課題
本研究の目的は、核融合炉心プラズマの高密度高性能化を目指して、燃料供給源である固体水素氷粒のミリ秒以下という短い時間スケールでのペレット溶発機構を理解し、数百ミリ秒オーダー以上の長い時間スケールでの高密度プラズマ粒子閉じ込めの理解に繋げることである。本年度は昨年度から継続して、固体水素氷粒の溶発によって形成される高密度プラズモイドの2次元内部分布を測定可能な高速分光計測を構築することとし、自作した分光器と高速度カメラを組み合わせ、水素原子Hβ線のシュタルク広がりを高速に測定する計測システムを構築した。電子密度・電子温度を評価した文献(C. Stehle+, Astron. Astrophys. Suppl. Ser. 1999)の計算コードを参照し、Hβ線の半値全幅計測値から電子密度を評価する検量線を定式化した。この結果、高密度プラズモイドの電子密度の測定下限値として想定した10^20 m^-3に対応する半値全幅0.03 nmを設計使用の目安に策定した。開発した分光器の装置関数は、あるスリット幅で水素光源を測定したときのHβ線の半値全幅として評価した。装置仕様から計算される逆線分散が4.666 nm/mmであるのに対し、実測された計測システムの逆線分散は4.653 nm/mmであり、その誤差は-0.28%であった。入口スリットが広い場合の装置幅はこの逆線分散で決まり、入口スリットの幅を100 umに設定することにより、入射光量の確保と必要な分解能を最適化できることを示した。京都大学のヘリオトロンJ装置のプラズマに固体氷粒を入射し、本計測システムによる高密度プラズモイドの電子密度の測定を試みた。固体水素氷粒の溶発によって生じたものと推定される発光現象を高速に捉えることができたが、初期の試行では、光量の飽和により、シュタルク幅、すなわち電子密度の評価には至らなかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は昨年度から継続していた高速分光計測システムの構築を行い、完了している。高密度プラズモイドの電子密度計算に必要なシステム設定の決定と、それらを用いた実験、生じた問題への対策を進められている。また、初期的ではあるが、実験に適用し、高密度プラズモイドの発光を捉えることに成功していることから、計画通りに進展していると言える。
自作分光システムの柔軟性を活用し、レンズのF値を4.5から22まで調整すること、減光フィルタを分光器内部のコリメート部分に挿入することなどを通じて、ペレットサイズやターゲットプラズマの密度に最適化した分光器のスループットを設定することができると見込んでいる。その際、装置関数のF値依存性を確認する必要があるため、そのための光源や光学配置の検討を進めている。高密度プラズモイドの発光を捉えることに成功したので、その発光をスペクトル分解し、バルマーβ線のシュタルク幅を同定し、高密度プラズモイドの2次元電子密度分布を評価する。ヘリオトロンJ装置では、高速分光計測以外にも多くの高密度プラズモイド計測のプラットフォームを構築している。例えば、フィルタ分光計測、可視、近赤外分光計測、ゼーマン分光計測、高速度カメラなどが挙げられる。これらの計測を相補的に用いて、固体水素氷粒の溶発機構の理解を進める。
物品購入品目に関して、若干の変更があったため、当初の見込み額と執行額が異なっているが、翌年度と合わせて研究成果発表として研究旅費に使用する予定である。
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