研究課題
今年度の本研究の最大の成果は、固体水素ペレット(以下、ペレットと呼ぶ)の溶発機構理解のため、高速度カメラや分光機器を用いた実験プラットフォームを構築できたことである。ここでは、ペレット溶発雲の周辺揺動の観測結果のほか、ペレット溶発雲の電子密度測定を報告する。本研究の目的は、ペレットを用いた高密度高性能化プラズマを目指して、数ミリ秒という短い時間スケールでのペレット溶発機構を理解することである。以下に主要な成果を2点挙げる。高速度カメラでペレット溶発雲のフィラメント構造を有する揺動成分が観測された。この揺動成分は磁力線に沿って広がっており、画像処理解析により、規格化揺動強度は15%程度であり、揺動によるペレット粒子の散逸は無視できない可能性があることが示唆された。この結果は、磁場構造と揺動の理解に重要な知見を与え、今後のペレット粒子供給の最適化につながると考えられる。次に、ファイババンドルと高速度カメラを使った分光計測結果を示す。本計測では、空間分解能を有する分光を可能としており、ペレット溶発雲の電子密度内部分布を計測することが可能である。今年度において、ペレット入射軌跡に沿ったアライメント調整を実施し、初めてペレット溶発雲の詳細な内部分布測定が可能となった。測定の結果、電子密度の範囲は、2.5×10^19-1.1×10^21 [m^-3]であることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、これまで継続していた高速分光計測システムを構築し、実験に適用するに至った。その結果、高密度プラズモイドの発光を捉え、初めてペレット溶発雲の内部分布測定に成功した。以上より、計画通りに進展していると言える。
ヘリオトロンJでは高密度プラズマ生成のため、低速(260±30 m s^-1)かつ小サイズ(1.1-1.2 mm)のペレット入射が可能となっており、NBIプラズマにおいて、ペレット入射によるプラズマ高密度化に大きな成果を挙げてきた。しかしながら、高密度化に至るまでの、短い時間スケール(数ミリ秒以下)でのペレット溶発機構、さらには長い時間スケール(数百ミリ秒以下)での粒子閉じ込めの理解が高密度化に重要である。また、ペレット溶発機構解明のためには、理論シミュレーションとの比較により議論していくことが重要である。ペレットの溶発機構の理解は、ヘリカル、トカマク装置にかかわらず、磁場閉じ込め装置全体における高密度プラズマの理解につながるものであり、本研究は将来の核融合プラズマにおける燃料供給の最適化に向けて貢献できると考えられる。ペレット溶発雲の内部分布測定が可能とした本計測は、ペレット溶発のシミュレーション結果との実験、理論比較に有用であり、今後スペインCIEMATとの共同研究で進めている理論シミュレーション結果と詳細に比較する予定である。
コロナウイルス蔓延により当初予定していた国際学会などの参加を取りやめたため、当初の見込み額と執行額が異なっているが、今年度は実験に必要な消耗品、および実験成果を国際会議などで発表するための旅費、参加費に使用する予定である。
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