研究課題/領域番号 |
19K03804
|
研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
西村 新 核融合科学研究所, その他部局等, 名誉教授 (60156099)
|
研究分担者 |
菱沼 良光 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (00322529)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 中性子照射 / Nb3Sn / 照射効果 / 臨界電流 / 核融合 |
研究実績の概要 |
ブロンズ法および内部スズ法で製作したNb3Sn線材をベルギーの原子炉(BR2)で4.9E+22、7.9E+22、1.7E+23 n/m2(0.1 MeV以上)まで中性子照射し、それらの臨界電流(Ic)の変化を8Tから15.5Tの範囲で測定した。2019年度ではブロンズ法で製作した試料Jと内部スズ法で製作した試料Cの照射後臨界電流測定を行った。4.9E+22 n/m2の照射後には、Icは約1.7倍増加し、中性子照射によってIcが向上することが確認された。しかし、1.7E+23 n/m2の照射後には、Icが大きく低下した。臨界磁場(Bc2)が16T~17T付近に大きく低下していることから、照射量が高くなると超伝導を発現するA15相が損傷を受け、Bc2が低下することによりIcが低下することが実験的に明らかになった。 A15相の超伝導発現は、量子化磁束が不純物などにピン止めされることによって現れる。ピン止め点の数とピン止め力の強さがIcの大きさを決める。0.1 MeV以上のエネルギーを持つ中性子は、NbやSnに衝突し、これらの原子をはじき出す。はじき出された原子は近隣の原子をはじき出し、そのはじき出しは幾つかの原子の移動を引き起こす。その結果として、空孔が形成され、また、格子間原子が作り出される。このような照射欠陥が量子化磁束のピン止め点となり、1本の磁束を多くの照射欠陥が支持することにより、高磁場においても磁束の固定が維持され、結果としてIcが向上するものと考えられる。詳細なモデルの構築が進められている。 照射効果に関する実験研究は高エネルギー分野の研究にも拡大しつつあり、実験技術の継承が進められている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の初年度(2019年度)では、ベルギー原子炉BR2での中性子照射ならびに照射後臨界電流測定が順調に進められた。即ち、ブロンズ法で製作した2種類の試料および内部スズ法で製作した2種類の試料、都合4種類の試料の、BR2での中性子照射が予定通り終了し、東北大学金属材料研究所大洗センターに移送された。また、これらの試料の、中性子照射量を変えた更なる中性子照射実験をBR2で計画中である。これらの複数条件の照射試料の作成、照射後試験により、照射効果に関わる実験の再現性、実験結果の確実性を確認することができ、研究成果の質、信頼性を大きく向上させることができる。 また、照射後のIc測定は、大きな被ばくもなく、順調に進められた。これは、2018年度までの先行研究において、放射化試料の取扱い技術、高磁場マグネットや温度可変インサートの運転、制御技術、Ic測定技術、測定手法などが確立されていたことに寄っている。 このような中性子照射効果に関わる体系的な実験研究は、本研究課題が世界で初めての試みであり、大変貴重な、重要な研究として位置付けられる。ブロンズ法、内部スズ法で作製した都合4種類の試料の実験データの相関性に関わる考察も含め、これらの結果を詳細に検討することによって、中性子照射によるNb3Sn線材の臨界電流の向上のメカニズムがより明確に解明されることが期待される。 BR2との研究協定や先行研究の充実が本研究課題の遂行を大きく促進している。
|
今後の研究の推進方策 |
ベルギーでの原子炉照射を継続する。中性子照射量は1.0E+22から5.0E+23 n/m2(0.1 MeV以上)程度とし、照射条件を変え、データの蓄積を推し進める。これまでの照射効果に関する研究では、照射量を対数で表記されてきているが、多くのデータを集積することにより、普通目盛りでIcを表記することができるようになり、普通目盛りを基本に議論することが可能になる。Icの向上、劣化は普通目盛りで検討されるため、Icの向上機構モデルを検討するに際し、新しい見地が得られるものと期待される。なお、内部スズ法では、Nb3Sn線材の中のSn含有量が多く、ブロンズ法の線材に比べ、Sn同位体による残留ガンマ線量が高くなる。大型超伝導コイルでは、有機絶縁材料が用いられることが多く、この残留ガンマ線は有機絶縁材料の劣化を速め、絶縁性能を低下されることが危惧される。そのような観点から、中性子照射後の残留放射線量にも注意する。 照射後のIc測定は、測定方法、データ整理方法がほぼ確立されている。放射線管理区域内での実験時間を増やすことによって、着実にデータを増やすことができる。今後も、可能な限り実験日程を確保し、Ic測定を継続して実施する予定である。 さらに、Ic測定と並行して、SQUIDを用いて照射試料の磁化特性を測定し、磁化特性の拡大とIcの増加との相関を検討すること、また、中性子のNbやSn原子への衝突確率から照射欠陥の存在確率を推定し、照射欠陥の存在密度とA15相の粒界や粒内の介在物や不純物の密度と関係を考察することにより、磁束のピン止め効果向上の観点から、Ic向上の機構解明、最適モデルの構築を進める。このような総合的な、体系的な検討により、照射によるIc向上モデルの妥当性をより確かなものとすることができる。さらに、中性子照射技術、被ばく低減技術など、貴重な実験技術を次世代に継続する。
|