本研究では実用線材であるNb3Sn線材を取り上げ、中性子照射によってNb3Sn線材の超伝導特性がどのように変化するかを、実験的に、系統的に明らかにすることを研究目的とした。また、照射後の極低温、高磁場での超伝導特性評価手法の確立、他分野の研究者の参加促進も課題とした。 臨界電流は、中性子照射によって量子化磁束のピン止め点が増加し、ピン止め力が向上する。そのために臨界電流は増加するが、照射量が増えるにつれてA15型結晶が破壊され、臨界電流は低下する。臨界磁場は、A15型結晶の結晶性の質に依存するが、熱処理によって導入される冶金的欠陥と照射によって導入される結晶格子欠陥の性質によって変化する。適量の結晶格子欠陥が導入されることにより結晶の質が向上し、臨界磁場は上昇するが、照射線量の増加によって結晶の質が低下し、臨界磁場は劣化する。臨界温度は、量子化磁束がどの温度まで安定してピン止めされることができるかを示している。結晶格子欠陥の増加によりピン止め力は増加するものの、結晶格子欠陥は、冶金的欠陥と異なり、結晶の格子振動に依存してその安定性が低下する。そのため、臨界温度は照射線量の増加に対して単調に低下する。 本研究課題の実施によって、原子炉を用いた中性子照射過程の確立および照射後試験法の確立を進めた。近年、低温超伝導材料の実用化とともに、高温超伝導材料の開発が精力的に進められている。次世代の核融合炉は、高温超伝導材料によって設計、製作される可能性が高まっており、本研究課題で確立した手法によって、高温超伝導テープ材料などの中性子照射効果が、体系的に検討されることが期待される。核融合分野にとどまらず、高エネルギー粒子や加速器の分野においても、照射効果は重要な検討課題である。本研究課題を通じて、これらの分野の研究者の参加が促進されたことも大変有意義な成果である。
|