研究課題/領域番号 |
19K03810
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松田 良信 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (60199817)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イオンエネルギー分布 / 反射電界型エネルギー分析器 / 磁気フィルタ / マグネトロンスパッタリング / 負イオン / 金属添加酸化亜鉛 / 透明導電膜 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに基板に入射する正・負イオンのエネルギー分布関数を安価で簡便に計測するために、磁気フィルタを利用した反射電界型エネルギー分析器(Retarding field energy analyzer: RFEA)を提案し、SN比の改善の余地があるものの、ターゲット浸食領域対向部付近で高エネルギーの負イオンが基板に入射することを確認した.令和元年度は,測定精度と信頼性の向上を図るために、本RFEAの改善・改良を進めるとともに,Ga添加ZnOターゲットのスパッタ成膜過程をより広範な動作条件で詳細に調査した.具体的な研究実績は以下のとおりである。 1.RFEAに流入する荷電粒子束への磁気フィルタの影響を実験的に調査した結果、RFEA前面に局所的な交差磁場領域を形成すると、RFEAへの負イオン流入束はほとんど影響を受けないが、電子流入束が2桁以上抑制され、正イオン流入束も一桁程度抑制されることがわかった.磁気フィルタの透過特性には、荷電粒子のラーマ―半径の違いだけでなく、磁気フィルター内部でのプラズマ密度の減少も考慮する必要があることがわかった。Parallel伝導度、Pedersen伝導度、Hall伝導度および電子の平行拡散損失に伴う正イオンの両極性拡散損失を含めた解析が必要であると考えられる。 2.RFEA内のメッシュグリッドを光学透過率の大きなものに置き換え、荷電粒子のグリッド透過率を向上させるとともに、グリッド電位分布の最適化を行った結果、4枚グリッドを使用してコレクタ電流を十分に確保することが可能になった。 3.Ga添加ZnO用直流もしくはRFのマグネトロンスパッタ(DCMS,RFMS)において、従来より広範囲の放電条件で基板に入射する正・負の荷電粒子のエネルギー分布関数の放電電力依存性と測定位置依存性を詳細に調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RFEA内部のグリッドと印加電圧の最適化、さらに磁気フィルタのプラズマおよびRFEA流入荷電粒子束への影響評価実験に予想外に時間を要した。後者の磁気フィルタの荷電粒子束への影響は、最初は荷電粒子のラーマ―半径の違いだけで簡単に評価できると考えていたが、3次元構造をもつ局所磁場中のプラズマ中の荷電粒子の輸送の理論的評価と解析が想像以上に複雑であり、その理解に時間を要した。前年度に有効性が確認できた磁気フィルタを用いたRFEAでのイオンエネルギー分布関数の測定実験を優先的に行ったため、当初予定していたデータ取得効率の向上とデータ処理効率の改善による測定のSN比の向上については、改良システムの設計と必要な機器と部品の選定・調達は終えたものの、その改良作業と評価試験を完了できていない。
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今後の研究の推進方策 |
1.研究成果の公開:これまでに得られた研究成果(DCMSとRFMSにおける基板入射正・負イオンのエネルギー分布関数の特徴)を論文誌に投稿し、公表する。また、ホームページで研究状況を可能な限り公開する。 2.データ収集・解析・可視化の効率化:データ収集効率の向上(電流電圧変換器とデータ収集用AD変換ボードの利用、ケーブル・コネクタ・シャーシを含めた微小電流測定におけるノイズ対策の徹底など)とデータ処理効率の改善(収集データの解析における平均化・平滑化・微分処理・グラフ化の効率化)による測定の高速化・効率化・SN比向上を図る。 3.DCMSとRFMSにおける基板入射正・負イオンのエネルギー分布関数のより詳細な調査研究:2の対策の有効性をチェックするとともに、金属ターゲットのマグネトロンスパッタリング過程における基板入射荷電粒子のエネルギー分布関数に関するより詳細な知見を得る。 4.磁気フィルタの影響の定量的評価とその最適設計:局所交差磁場領域がある場合のプラズマの空間分布と荷電粒子の輸送過程をPICモンテカルロシミュレーションを用いて評価する。PICモンテカルロシミュレーションに関しては、例えば、韓国プサン大学のHae June Lee教授に共同研究を提案する予定である。また、一方で、交差磁場中のParallel伝導度、Pedersen伝導度、Hall伝導度などを解析的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度には「その他」として、論文投稿費用100,000円を予定していたが、令和元年度内に論文投稿費用の支払い請求は20,000円分のみであった。また、「物品費」を900,000円を計上していたが、購入物品の価格がネット通販(キャンペーン等)を利用したことにより予定より安価に購入できた。成果発表のための学会・研究会参加のための旅費への支出が予定より増加したが、合計で145,489円の次年度使用額が発生した。この次年度使用額は、令和2年度における論文投稿費用と物品費として有効に活用する予定である。
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備考 |
Nagasaki Univ. Plasma Engineering Laboratory
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