本研究は、数理モデリングを手段とし、低温大気圧プラズマによって誘起される生化学反応および細胞挙動を定量的に解明することを目的とする。特にプラズマ照射に起因した (1) 活性酸素窒素種の導入が細胞呼吸・エネルギー代謝等の生命維持機能に及ぼす影響、(2) 活性酸素窒素種の導入が誘発する細胞死挙動、および (3) これらの挙動を司るシグナル伝達機能を解明する。以下、主な成果を記す。 活性種が細胞呼吸・エネルギー代謝機能に及ぼす影響の解明を目的とし、単一細胞内におけるミトコンドリア内クエン酸回路・ROS除去機構・ATP代謝機能をモデル化を行い、細胞内活性酸素(ROS)の恒常性を維持する細胞呼吸機能およびATPを産出するエネルギー代謝機能をシミュレートした。 大気圧プラズマの化学反応ネットワークおよび生体内の生化学反応ネットワークの理解の深化に焦点を絞り、数学・情報科学分野で用いられるグラフ理論および複雑ネットワーク解析を応用するモデリングを行った。ここでは極めて複雑なプラズマの化学反応モデルを対象とし、グラフ理論に基づいたネットワーク解析によるスケール変換を行った。 単一細胞内の生理化学反応をモデル化し、活性酸素種が細胞死を誘導する機構の解明を目的とした数値シミュレーションを行った。ここでは、特に、外因性刺激が細胞内に取り込まれるプロセス・通常のミトコンドリア機能が阻害されるプロセス・ミトコンドリアからサイトプラズマへとシトクロムCが放出されるプロセス・シトクロムC放出カスケードに従いシステインプロテアーゼが活性化されるプロセスに注目し、プラズマ由来の活性酸素種がアポトーシスを誘導するシグナル伝達経路を明らかにした。 以上の成果に基づき、原著学術論文 4編、解説論文 1編、著書 1編、国際会議招待講演 4件、国際会議講演 21件、国内会議招待講演 4件、国内会議講演 16件の業績を得た。
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