研究課題/領域番号 |
19K03816
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研究機関 | 高知工業高等専門学校 |
研究代表者 |
長門 研吉 高知工業高等専門学校, ソーシャルデザイン工学科, 教授 (80237536)
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研究分担者 |
栗田 弘史 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70512177)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大気圧プラズマ / 反応活性種 / 質量分析 / イオン |
研究実績の概要 |
1)大気圧プラズマジェット内外のイオン組成の分析 大気圧アルゴンプラズマジェットによって生成するイオン組成の分析を行い、反応活性種に関する情報が得られる負イオンの測定を行った。プラズマジェットの中心部から周辺領域までのイオン組成分布の解析を行い、活性酸素種(過酸化水素など)と活性窒素種の分布について推定した。その結果、プラズマジェットの中心部では活性酸素種の割合が多いが、周辺部に行くにしたがって、活性窒素種の割合が増加することが確認された。 2)反応活性種の生成に対する水蒸気の影響評価 大気圧プラズマでの反応活性種の生成に対する水蒸気の影響を調べるために、プラズマジェットの下部に水を置いて水蒸気を加えた場合の負イオン組成の変化を調べた。水蒸気を加えることによってOHラジカルが増加したと考えられるイオン反応の進行が見られたが、負イオン組成全体では大きな変化は確認できなかった。また、プラズマジェットを水に照射してその近傍の負イオン組成の測定も行った。この実験においても、明確な負イオン組成の変化は見られなかった。 3)プラズマを照射した溶液中の反応活性種の測定 プラズマを照射した溶液中の反応活性種の分析を電子スピン共鳴 (ESR)とスピントラップ剤および化学プローブ法を用いて行った。プラズマジェットの中心から周辺部にかけて範囲を限定して溶液に照射し測定を行った結果、活性種によって最大濃度を示す位置が異なることが確認できた。この結果から、液相中の過酸化水素の主要な生成経路が液相中での生成ではなく、気相中で生成されたの液相への輸送である可能性が示唆された。また、周辺雰囲気の水分量増加により長寿命活性種の生成量の増加が見られた。このことから、長寿命活性種は周辺雰囲気の水蒸気の影響を受けることが示唆され、気相で生成した活性種への輸送が重要であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験で使用するプラズマ発生装置については、形状や配線方法、電極間の絶縁方法に改良を加え、安定的に大気圧プラズマを生成できるものを製作することができた。 アルゴンやヘリウムを用いた標準的な大気圧プラズマで生成するイオンの質量スペクトル測定による、イオンピークの詳細な同定と関連するイオンと活性種の生成反応の調査・確認作業はおおむね行うことができた。イオン組成の同定には裏付けとなる生成反応の確認が必要であるが、今回同定したイオンの生成反応についてはこれまでに報告されていない反応があるため、組成が確定できていないイオンも一部残っている。特に過酸化水素が付加した負イオンの同定についてはより詳細な実験を追加で行う予定である。 プラズマ発生条件の活性種生成過程に対する影響の解明については、プラズマに添加ガス(窒素、酸素)を加えた場合の影響について実験、評価を行った。また、水蒸気の影響評価についても実験を行った。さらに放電電圧による影響についても実験・分析を進めている。コロナ禍の影響で実験の補助を行う学生の活動に制約が生じたため、予定していた実験条件すべてについてはまだ行うことができていない。 気相プラズマ中の活性種由来イオンの測定との比較を行うための、プラズマ照射溶液中の活性種測定法については、電子スピン共鳴 (ESR)と化学プローブ法を用いた測定・分析手法が確立した。気相中の活性種分布との比較については一定の相関が確認できたものの、測定データ数がまだ十分とは言えない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
大気圧プラズマで生成する活性種由来のイオンの生成反応については未解明のものがあり、引き続き調査・解析を行う。特に、過酸化水素および関連物質が関与するイオンの組成分析を詳しく行い、イオン組成の同定の確度を上げるための実験を進める。また気相中で測定するイオン量、イオン組成比から、イオン生成反応に関与している中性の反応活性種の濃度を推定する手法の開発を目指して研究を進める。 プラズマ発生条件の活性種生成過程に対する影響の解明については、ヘリウムプラズマ、アルゴンプラズマの両方に対して、添加ガス(窒素、酸素、水蒸気)、放電電圧および放電波形の影響についての未実施の条件での測定・評価を行う。またこれまでの実験からイオンとそのもとになる反応活性種はプラズマジェットの内部や周辺において、ジェットの進行方向やそれと垂直な方向に対して割合が変化することが確認されている。プラズマの発生条件を変化させる実験において、イオンおよび反応活性種の空間濃度分布を把握できるようにする。 プラズマを照射した溶液中の活性種測定との比較においては、気相中の活性種の測定データを増やして、より詳細な比較を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請では初年度にプラズマを発生させる放電用の高性能の高電圧アンプを購入する費用を計上していたが、実際の配分額では購入ができなくなったため、より低価格な高電圧パルス電源を3年目に購入したため。次年度の使用額は主に安定な高圧電源の購入に充てる予定である。
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