研究課題
超弦理論の完全な(非摂動的)定式化を与えると期待されている行列模型について、その性質を二つの研究により調べた。一つ目の研究では、超弦理論のNS5ブレーンと呼ばれる物体が、行列模型により正しく記述されるかどうかを調べた。この研究ではまず、超弦理論の持つゲージ/重力対応と呼ばれる双対性に基づいて、行列模型が物体を記述し得る適切な極限を導出した。そして、そのような極限が本当に行列模型に存在することをMonte Carlo法による数値計算により示した。この結果は、行列模型が超弦理論の物体を確かに含んでいることの強い証拠を与えている。また、この極限はこれまでに知られている極限('t Hooft極限など)とは全く異なる新しい形をしており、場の理論の観点からも興味深い極限の一例を与えていると言える。二つ目の研究では、行列模型の幾何学的側面を調べた。行列模型はその名の通り行列を自由度とする模型であり、行列とは有限個の数の集まりである。そのような数の集まりがどのように超弦理論の幾何学的物体を記述し得るのかを理解するためには、行列と幾何学の関係を知る必要がある。この研究では、数学分野で発展させられていた量子化の方法を応用し、行列が記述する幾何学のクラスがどのようなものかを理解した。研究の結果、ベクトル束の切断として定式化されるような様々な場(テンソル場や電荷をもった場)が、行列によって記述され得ることが分かった。このような場は超弦理論において自然に現れるものであり、行列模型がそのような対象を確かに含んでいる事が示された。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍の影響により研究発表の面では多少の遅れが出ているが、研究活動としては順調に進んでいる。
コロナ禍の影響により、研究発表の機会が大きく減ってしまったが、今後は状況が改善される見込みが強いため、これまでに得られた成果について、論文や研究会・学会を通して発表していく予定である。研究の進め方については、昨年度までに得られた結果をさらに精密化し、洗練されたものにしていく計画である。
コロナ禍の影響により、当初の計画通りに研究が進まない部分があり、これを補うために研究期間を1年延長した。特に、各所での研究会の開催状況はまだ通常に戻っておらず、この要因により、主に旅費として計画していた経費が未使用となり、次年度使用額が生じた。延長した最終年度に論文や研究会・学会発表を通して研究成果の発表を行う予定であり、そのための予算として次年度使用額を用いる予定である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Progress of Theoretical and Experimental Physics
巻: 2023, no. 2 ページ: 023B01
10.1093/ptep/ptad006
巻: 2023, no. 4 ページ: 043B01
10.1093/ptep/ptad042
巻: 2023, no. 1 ページ: 013B06
10.1093/ptep/ptac171
https://www-het.ph.tsukuba.ac.jp/~ishiki/index.html