行列模型は弦理論の定式化を与えると予想されている模型であるが、行列の配位と弦理論の(微分)幾何学がどのように関係するのかが理解されていなかった。行列模型を用いた弦理論の定式化を確立する上で、この関係を理解することは重要な課題であった。本研究ではこの課題に取り組み、これまで多くの成果が得られた。特に標準的な素粒子の理論に現れる「場」の自由度(数学的にはベクトル束の切断や接続に対応する自由度)が行列の配位を用いて記述できることを理解した。本年度は最終年度であり、これまでの研究成果を論文にまとめ、研究会・学会において発表した。一方、本研究では、行列模型を用いた弦理論の物体の記述を理解する問題も扱ってきた。弦理論のいくつかの物体(特にNS5ブレーンと呼ばれる物体)については行列模型でどのように記述されるのかが理解されておらず、このことが行列模型を理解する上での大きな障害の1つとなっていた。本研究では継続的にこの問題に取り組み、前年度までに数値的な手法を用いて行列模型を解析し、行列模型がそのような物体を記述する証拠を得ていた。しかし、この研究では数値的手法に頼っていたため、計算の誤差により決定的な結論を得ることはできていなかった。本年度の研究では、これまでの計算を見直し、新しい視点から計算をやり直す事で、この問題が解析的計算によりアプローチできることが分かった。最終年度内にこの解析的な計算を完遂するには至らなかったが、この方法の発見は今後の研究につながる大きな進展であると言える。
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