研究課題/領域番号 |
19K03819
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
金谷 和至 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80214443)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 素粒子物理学 / クォーク・グルオン・プラズマ / 有限温度 / 熱力学的性質 / シミュレーション / 宇宙史 / グラジエントフロー |
研究実績の概要 |
138億年前のビッグバンからの膨張・冷却により、宇宙年齢10-4秒頃(温度約1兆度)に、クォークが自由に飛び回る「クォーク・グルオン・プラズマ(QGP)状態」から、クォークがハドロン中に閉じ込められている「ハドロン状態」(低温相)への相転移があったと考えられている。このQCD相転移の解明は、宇宙において我々の知る元素がいかに創成されたかの初期状態の解明でもあり、宇宙史を理解する上で極めて重要である。 我々は、グラジエントフロー(勾配流)に基づいて鈴木博らにより開発されたSFtX法(small flow-time expansion method)を使い、QCD相転移温度近傍におけるクォーク物質の熱力学的諸性質を、理論的基盤が確立しているウイルソン型クォークを用いた格子QCDシミュレーションにより研究した。シミュレーションには、くりこみ群により改良された岩崎ゲージ作用と、O(a)まで非摂動論的に改良されたクローバー・クォーク作用を用いた。 我々が実施したSFtX法のフルQCDによる最初の試験結果を受けて、クォーク質量を現実の値にとった2+1フレーバーQCDのシミュレーションを開始し、約120-300MeVの温度の範囲で、エネルギー運動量テンソルやカイラル感受率の測定を進めた。低温領域の統計はまだ十分な量に達していないが、相転移温度の上限として150MeV程度以下という低い値を示唆する中間結果を得た。また、SFtX法の改良に向け、SFtX法で求める物理量とフローさせた格子上の測定量を結び付けるマッチング係数の計算におけるくりこみスケール依存性と、マッチング係数の高次項の効果を研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
QCD相転移温度が当初の予想より低い可能性が出たため、当初計画より低い温度領域でのシミュレーションを高統計で進める必要が出てきた。相転移温度の確定は大規模実験の解析や現象論的に大きなインパクトがある。我々の研究により、現在、スタガード型クォークを使った研究によるQCD相転移温度より低い温度となる可能性が出てきている。スタガード型クォークは連続極限が現実のQCDを再現する保証がなく、理論的基盤が確立したウイルソン型クォークによる検証が望まれている。そのためには、明確な低温相でのシミュレーションを含む、臨界領域から低温領域での系統的研究が必要である。我々が採用している固定格子間隔法では、温度が低いと格子体積が大きくなり、そこからも大きな計算量が必要となる。臨界減速とともなって、低温領域で予定より大きな計算時間が必要であり、進捗がいくらか遅れる結果となった。 他方、今年度実施したSFtX法におけるくりこみスケールの研究から、くりこみスケールの調整で計算精度やSFtX法の適応範囲を大きく改善できる見込みが付いた。これにより、今後の研究で遅れを取り戻す可能性も開かれている。
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今後の研究の推進方策 |
様々な計算機資源に応募して、低温領域の配位生成をより重点的に推進する。 他方、今年度の研究成果により、新しいくりこみスケールmu_0でSFtX法の適応力が大きく強化されることがわかった。mu_0スケールにより、現在進めている物理点で格子間隔1点での研究をできるだけ早期に完結し、最終目標である連続極限外挿に向け、ゼロ温度のPACS10配位に基づく系統的な物理点有限温度シミュレーションに移行することを目指す。2020年度中には、PACS10配位に基づく試験的有限温度配位生成を開始する計画である。
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