研究課題
138億年前のビッグバンからの膨張・冷却により、宇宙年齢10-4秒頃(温度約1兆度)に、クォークが自由に飛び回るクォーク・グルオン・プラズマ状態から、クォークがハドロン中に閉じ込められているハドロン状態への相転移があったと考えられている。このQCD相転移の解明は宇宙史を理解する上で極めて重要である。我々は、グラジエントフローに基づくSFtX法(small flow-time expansion method)を使い、QCD相転移温度近傍における熱力学的諸性質を、ウイルソン型クォークを用いた格子QCDで研究している。クォークが重い場合の試験研究でSFtX法が有用であると確認できたことを受けて、クォーク質量を現実の値にとった2+1フレーバーQCDシミュレーションを進めている。この過程で、格子が粗い場合などにはSFtX法をさらに改良する必要があることが判明したので、マッチング係数のくりこみスケール依存性などを研究し、くりこみスケールを選ぶことでSFtX法を大きく改善できることを示した。そして、この改良を取り入れた物理点シミュレーションを実行し、エネルギー運動量テンソルやカイラル感受率の測定から、相転移温度が150MeV以下を示唆する中間結果を得た。最終年度では、相転移温度の下限を確定するために、相転移温度近傍や低温領域の統計を大きく増強した。並行して、クォークが重いQCDの熱力学を研究した。クォークが重い極限で連続極限外挿を実行し、SFtX法の様々な手法による潜熱の結果が一致することを示した。また、クォークが重い2+1フレーバーQCDで臨界点を研究して、臨界スケーリングが大きな空間体積で実現することを示し、それを利用して臨界点を高精度で測定した。さらに、研究に用いたホッピング・パラメータ展開の収束性を研究してその有効性を確認し、有効範囲を拡大する改良手法を開発した。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 7件、 招待講演 5件)
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