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2021 年度 実施状況報告書

データ解析の数学的手法が描く正準テンソル模型の時空描像と時空概念の普遍性

研究課題

研究課題/領域番号 19K03825
研究機関京都大学

研究代表者

笹倉 直樹  京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (80301232)

研究分担者 佐藤 勇貴  名古屋大学, 高等研究院(理), 特任助教 (70714161)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワードテンソル模型 / 量子重力 / 時空の創発 / 古典時空
研究実績の概要

量子重力理論の構築は理論基礎物理学における長年の懸案である.原因は,一般相対性理論が時空間上の場の理論である一方で,通常の場の理論の量子化の手続では量子化が極めて困難であることにある.解決の一つの方向性として離散的アプローチがある.離散的アプローチでは,離散的な自由度を持つ理論を量子化したものを考え,古典的な連続時空間や一般相対性理論が,その量子化された離散理論の低エネルギー有効理論として現れることを期待する.今年度の研究の大きな成果は,離散的理論の一つである正準テンソル模型を量子化したものが,古典的時空を生成する仕組みを持っていることを発見したことである.
正準テンソル模型には厳密な波動関数が知られている.原理的にはその波動関数の性質を調べればダイナミクスを全て知ることができる.しかしこの波動関数はエアリー関数の積分表示を多変数に拡張したもので表され,その性質を知ることは簡単ではない.以前の成果として既に,運動量表示の波動関数は,配位がリー群対称性を持つときにピークを持つという性質がわかっている.この事実は,実際の時空間がローレンツやドジッターのリー群対称性を持っていることを考えると,正準テンソル模型において時空間が生じていることを強く示唆している.しかしこれまでの研究では具体的に時空間を見出すことはできなかった.
今年度の新しい視点は,同じ波動関数を座標表示で調べ直したことである.座標表示では,波動関数の表現にデルタ関数やエアリー関数の積が多数現れ解析が困難であったため,これまでは避けていたが,今年度調べることにした.積分が振動積分であるため,いわゆる符号問題があって通常のモンテカルロ法では調べられないのであるが,再重み法という少々原始的な方法でモンテカルロ計算を行ったところ,量子相と古典相を発見し,古典相では古典的時空間が生成されていることを具体的に確認することができた.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

研究自体の進捗状況としては極めて良好と言って良い.正準テンソル模型における量子相と古典相の2相構造の発見は思いもよらない大きな成果である.量子相においては配位は常に揺らいでおり,距離計量だけでなく時空次元すら不確定であり,そもそも時空間と呼んで良いものが生成されているのかどうかすら良くわからないものである.一方で,古典相における配位はほぼ定位置に固定され,形や次元が確定しており距離計量が定まる,まさしく古典連続時空と呼んで良いものが現れる.しかも,システムが巨視的になるほど古典性が増す傾向も確認できており,今後の研究に極めて明るい見通しを与えている.
一方でこの成果の認知に関しては非常に不満足な状況である.これはコロナの影響が大きく,国際会議等で発表する機会がしばらくなかったことが主な原因である.もちろんオンライン国際研究会での発表等は行ったのであるが,現地発表に比べるとほとんどインパクトがない.やはり現地に行って発表を目の前で行い,議論や意見等などのフィードバックが必要である.
また,コロナの影響で計画していた勉強会の開催もしばらく行うことができていない.

今後の研究の推進方策

量子相と古典相の二つの相の存在は確かであるもののそれらの性質に対する理解はまだまだ限られている.一つの大きな疑問はそれらの相をどのように特徴づけたら良いかがよくわかっていないことである.古典相における明らかな違いとして,配位の揺らぎが抑えられていることは確かであるが,なんらかのオーダーパラメータによって二つの相が明確に区別できるのかどうかが不確定である.これらの相の間に転移点はあるのかどうか,それとも,いわゆるクロスオーバーなのかが分かっていない.古典相での特徴としてレプリカ対称性が破れていることはほぼ確かであるが,このことが熱力学的相転移と関連するかどうかも不明瞭である.また正準テンソル模型の波動関数は「pスピン球模型」と呼ばれるスピンガラスの模型と非常に良く似ており,その模型ではガラス転位はレプリカ対称性の破れで記述される.古典相=ガラス相という大胆な予想が立つわけであるが,ガラスは量子重力と同じく難問であることが知られており,容易には確認できそうにない.しかし研究方針としては大変面白い方向である.
コロナについてはほぼ収束することは見えており,国際会議も各所で対面開催の形で回復してきている.積極的に参加発表することにより,研究結果の国際的認知に努め,また,議論や意見を通じてフィードバックを取り込んで正準テンソル模型の発展をさらに促したい.また,今年度こそは勉強会の再会を行いたい.

次年度使用額が生じた理由

余剰金が発生している原因はコロナ禍である.本研究計画の予算の主な使用目的は研究交流であったが,ここ2年間コロナ禍のためそれが全くできない状況にあった.しかし,予防接種が進んだこともあり,対面での国際会議が各所で開かれるようになってきた.また,海外渡航に対する政府や大学の制限がほとんど取り除かれた.これらの状況の改善があるので,来年度は積極的に国際会議に参加したいと考えている.またこの2年間行うことのできなかった勉強会の開催も行いたい.また,まだ具体的ではないが,小規模な国際研究会を行うことも検討したい.このような研究交流を積極的に行うことにより予算を有効活用したいと考えている.

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)

  • [雑誌論文] Emergence of Lie group symmetric classical spacetimes in the canonical tensor model2022

    • 著者名/発表者名
      Kawano Taigen、Sasakura Naoki
    • 雑誌名

      Progress of Theoretical and Experimental Physics

      巻: 2022 ページ: 043A01

    • DOI

      10.1093/ptep/ptac045

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Counting Tensor Rank Decompositions2021

    • 著者名/発表者名
      Obster Dennis、Sasakura Naoki
    • 雑誌名

      Universe

      巻: 7 ページ: 302~302

    • DOI

      10.3390/universe7080302

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Phase profile of the wave function of canonical tensor model and emergence of large space-times2021

    • 著者名/発表者名
      Sasakura Naoki
    • 雑誌名

      International Journal of Modern Physics A

      巻: 36 ページ: 2150222

    • DOI

      10.1142/S0217751X21502225

    • 査読あり
  • [学会発表] 正準テンソル模型における古典時空の生成2021

    • 著者名/発表者名
      笹倉直樹
    • 学会等名
      離散的手法による場と時空のダイナミクス2021
  • [学会発表] Emergence of classical spacetimes in canonical tensor model2021

    • 著者名/発表者名
      Naoki Sasakura
    • 学会等名
      Workshop on Quantum Geometry, Field Theory and Gravity
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Emergence of classical spacetimes in canonical tensor model2021

    • 著者名/発表者名
      Naoki Sasakura
    • 学会等名
      5th International Conference on Holography, String Theory and Discrete Approach
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Emergence of Lie group symmetries in oscillatory integrations - In matrix and tensor models -2021

    • 著者名/発表者名
      Naoki Sasakura
    • 学会等名
      XIV. International Workshop LIE THEORY AND ITS APPLICATIONS IN PHYSICS
    • 国際学会 / 招待講演

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公開日: 2022-12-28  

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