研究実績の概要 |
M2ブレーンを記述する超対称チャーン・サイモンズ理論の分配関数は、本来無限次元の経路積分により定義されるが、超対称理論の局所化公式を用いて有限次元の行列積分に帰着される。ランクを粒子数と見なし双対なフガシティを導入して大正準集団に移行すれば、規格化された大正準分配関数は一般的にスペクトル演算子のフレドホルム行列式になる。特別な背景上において、スペクトル演算子が例外群のワイル群の対称性を持つことや、大正準分配関数が位相的弦理論の自由エネルギーで記述されることから、背後に可積分構造が期待される。 パンルヴェ方程式の保存曲線が同様の例外群のワイル群の対称性を持つことから、先行研究では最も簡単な系の大正準分配関数が双線形形式のq変形された第3パンルヴェ方程式(qPIII)を満たすことが発見された。より一般的にM2ブレーンの分配関数とqパンルヴェ方程式の関係を理解するため、本年度ではNS5ブレーンと(1,k)5ブレーンが複数ある系に解析を拡張した。その結果、規格化されていない大正準分配関数が双線形形式のq変形された第6パンルヴェ方程式(qPVI)を満たすことを発見した。具体的には次のように解析を進めた。大正準分配関数は、最低次において円周クイバーが線形クイバーに退化し、簡単な明示式が得られる。その明示式を用いて共変的な40個のqパンルヴェ方程式qPVIの係数を特定した。さらに、大正準分配関数の高次項に対して明示式を拡張し、高次項を含めて40個のqパンルヴェ方程式qPVIを満たすことを確認した。 研究期間を通じて、ブレーン描像におけるハナニー・ウィッテンのブレーン遷移とスペクトル演算子のワイル群の対称性を関連付け、双対カスケードとqパンルヴェ方程式のアフィンワイル群の対称性を関連付けた。対称性の視点からM2ブレーンの理解を深め、M理論の全体像の解明に繋がったと考えられる。
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