研究課題/領域番号 |
19K03830
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
田中 和廣 順天堂大学, 医学部, 教授 (70263671)
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研究分担者 |
熊野 俊三 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (10253577)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 重力形状因子 / QCD / J-PARC / エネルギー・運動量テンソル / GPD / 3ループ / QCD和則 / TMD |
研究実績の概要 |
QCDのエネルギー・運動量テンソルのハドロン行列要素(重力形状因子)は、ハドロンの種類によらず、ツイスト2、3、4の形状因子が少なくとも1個ずつある。振る舞いが未知のツイスト3と4の重力形状因子の計算を進めた。 ツイスト4の重力形状因子については、これまでに得ていた前方極限(ゼロ運動量移行)での繰り込みスケール依存性の式を、核子行列要素の場合に定量計算した。繰り込みスケール無限大極限では、QCDのトレース・アノマリーに関係した漸近的値になることがわかっていたが、この漸近値への接近は当初の予想よりずっと緩やかで、現象論的に重要なエネルギースケールでは2ループQCD補正が大きく影響し、3ループ補正まで取り入れれば精密な予言ができることがわかった。 非前方(有限運動量移行)で重力形状因子の非摂動QCD効果を評価する光円錐和則をπ中間子の場合に扱い、電磁形状因子の光円錐QCD和則の先行研究の結果を拡張することにより、和則の分散公式の構成および演算子積展開主要項の計算を行い、ツイスト3と4のテンソル構造の抽出を検討した。 また、π中間子ビームを用いたJ-PARCプロセスの断面積を評価するための光円錐QCD和則の扱いでは、対応する分散公式の導出を行い、非連結なカレント行列要素の役割を明らかにした。 重力形状因子と類似のハドロン行列要素として、横運動量依存クォーク分布関数(TMD関数)について、スピン1のハドロンに対する結果を得ることができた。クォーク相関関数の独立なテンソル構造への分解として、スピン1のハドロンに対するTMD関数の定義を与え、特に、ツイスト3と4においてこれまで知られていなかった新しいTMD関数を明らかにし、全部で32のTMD関数が存在することを示した。これらのTMD関数の中に、横運動量で積分すると時間反転不変性からゼロになる総和則を満たすものが存在することも見付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のため、出席を予定していた国内外の研究集会の中止や延期が相次ぎ、教育面で大学の担当授業や学生指導での急遽の対応に追われることも多かったため、学会発表、論文発表などの成果発表の機会とそれらにかけるエフォートが十分にとれない面があったが、こうした状況下においても、本課題は理論研究であるため、研究推進のための計算の遂行は最低限進めることができたと判断し、また当初予定していなかったスピン1のハドロンに対する横運動量依存クォーク分布関数について進展もあり、おおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
ツイスト4の重力形状因子の前方極限(ゼロ運動量移行)での繰り込みスケール依存性の定量計算については、3ループ補正まで取り入れた精密な計算を核子の場合に行い、クォーク質量およびシグマ項と呼ばれる量に比例する効果からの影響(不定性)を含めた予言の形にまとめる。また、同様な定量計算をπ中間子の場合に拡張する。 非前方(有限運動量移行)でπ中間子の重力形状因子を評価する光円錐QCD和則の計算は、演算子積展開の1ループ項の計算までさらに進めた上で、ツイスト3と4での定量評価の結果を出す。 π中間子ビームを用いたJ-PARCプロセスの断面積を評価するための光円錐QCD和則の扱いは、雛形となる先行研究が無かったため、対応する分散公式の導出を一から行い、当初の想定を越えた複雑な公式が得られた。この公式の妥当性を分散公式の一般理論の観点から検証し、非連結なカレント行列要素と連結なものとの役割の違い、π中間子の歪化関数との関係を明らかにすることで、断面積の数値評価の準備を今年度前半に整えることを目指す。 以上で得られた結果を、論文発表、および、オンラインあるいはオンサイトの研究集会で発表していく。また、スピン1のハドロンに対する横運動量依存クォーク分布関数の測定実験は、米国あるいはロシアの研究所にある粒子加速器を用いて実現できる可能性が考えられるので、オンライン・オンサイト研究集会などで国内外の実験物理学者と実現可能性を議論していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、出席を予定していた国内外の研究集会の中止や延期が相次ぎ、成果発表のための旅費として計上していた分が使用できずに残った。 国内あるいは国外で現地開催される研究集会への出席が可能な状況になれば、その旅費として使用する。旅費として使用できない分は、理論計算推進のための物品費(数式計算の最新鋭パソコンソフト、専門書籍、高性能パソコンなどの購入)で使用する。
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