研究実績の概要 |
本研究課題の目的の延長線上では、応用として摂動論的量子色力学(pQCD)などによる輻射補正の高次項を求めることによって、精密素粒子物理学のフロンティアを切り拓くということが期待されている。これに関して以下のような研究を行った。 核子とレプトンの深非弾性散乱は、核子構造を調べることのできる散乱反応過程のひとつである。光子交換による非偏極深非弾性散乱について、現在ではQCDの結合定数の展開でのnext-to-next-to-next-to-leading order (NNNLO)の項の評価が可能になっている。理論的にその次の高次項を評価するためには、pQCDでの4ループ・ウィルソン係数関数を計算する必要がある。 今回我々は、構造関数F2とFLの計算に必要な、非一重項クォーク演算子に対応する4ループ・ウィルソン係数関数のメリン・モーメントを、モーメントの次数NがN = 8, 10の場合に対して計算することができた。N = 2, 4, 6の場合に関しては、すでに過去に計算を行い、結果を発表している。また、N = 12, 14に関してもlarge-nc近似においての値を計算した。すべての計算結果は、既知の全次数におけるlarge-nc近似での値と無矛盾である。 さらに、これまでの計算結果から得られている情報と組み合わせることによって、ビョルケンのスケーリング変数xの関数として上記のウィルソン係数関数の部分的な表式を得た。結果が部分的であることから、現象論的な直接的利用には制限があるものの、将来の計算を見据えた重要なステップであると言える。
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