研究実績の概要 |
本研究課題の目的の延長線上では、応用として摂動論的量子色力学(pQCD)などによる輻射補正の高次項を求めることによって、精密素粒子物理学のフロンティアを切り拓くことが期待されている。これに関して以下のような研究を行った。 欧州原子核研究機関(CERN)での大型ハドロン衝突型加速器(LHC)実験においては、入射粒子は陽子などのハドロンである。よって、観測される物理量を対象とした理論計算には、必ずハドロン内のパートン分布関数に由来する不定性が存在する。この不定性の原因の一つとして、パートン分布関数の決定に用いられるパートン分岐関数の高次補正項が知られていないことがある。 今回、以前より共同研究者と計算を進めていた、量子色力学での4ループ・パートン分岐関数のモーメントの解析的な計算結果の続報を論文としてまとめた。この計算はスピンがN=2,4,...,10のフレーバー1重項のクォーク演算子とグルーオン演算子の異常次元を計算することにより実行されている。クォーク→クォークの場合に関してはN=12についても計算し、他の手法による計算と結果が一致している。一方、グルーオン→クォーク、グルーオン→グルーオンの場合のN=10の計算に現れるダイアグラムの中で最も難しいものは、計算時間が2×10^8 CPU・秒、途中式のサイズが20TBを超え、このままN=12の計算へと拡張することは困難であると思われる。なお、すべての計算結果は、様々な既知の部分的な結果と無矛盾である。 また、今回の結果を取り込んだ4ループ・パートン分岐関数の近似式を構築した。得られた異常次元の結果と、4ループ・パートン分岐関数の近似ルーチンは、他の研究者が容易に利用できる形で公開した。
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