研究課題/領域番号 |
19K03833
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
丸山 智幸 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50318391)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガンマ線渦 / 強磁場 / シンクロトロン放射 / 相対論的量子論 / ランダウ準位 / 角運動量 |
研究実績の概要 |
進行方向に軌道角運動量を持つ光、光渦が自然科学、応用科学で多くの研究者に興味を持たれているが、ブラックホールの持つ強力な重力による物体の流れから自然現象として光渦が発生する可能性を指摘され、天体系での光渦の発生が注目を浴びるようになった。天体系では重力以外に磁気力が強力な力を物体に及ぼすことはよく知られている。本研究で我々は、10の11から15乗ガウスといった中性子星内での強力な磁場中での電子の運動に注目しシンクロトロン放射によって発生するガンマ線がガンマ線渦になることを示した。 磁場で運動する電子は、磁場に垂直な平面内で回転する螺旋運動になる。この運動を量子論的に取り扱うと、運動量の磁場に垂直な成分の二乗が整数倍となるランダウ準位が現れることが分かっている。このとき、電子運動の角運動量の磁場方向成分は保存され、電子の波動関数はその固有状態として記述することができる。そして、シンクロトロン放射も電子のランダウ準位間遷移による光子放出となる。このとき電子の始状態、終状態は角運運動量の固有状態であり、放出光子もまた角運動量の固有状態となる。もし、この角運動量の値が2hbarより大きいならば、軌道角運動量も1hbar以上となるため光子渦であると判断され、ここでのエネルギーはガンマ線であるからガンマ線渦が発生されたと考えることができる。 我々は,電子の波動関数およびランダウレベル間遷移の計算を相対論的量子論の枠組みで実行した。このとき、対称ゲージを用いて,電子の波動関数が角運動量(磁場方向)の固有状態となるようにした。そして、放出光子の波動関数が磁場に平行に伝搬するベッセル波となり、高いエネルギー領域での光子がガンマ線渦に対応することも示した。このことから、全角運動量の伝搬方向成分がディラック定数(hbar)の2倍以上となるガンマ線渦が確かに放出させることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
磁場中の電子の波動関数を軌道角運動量の固有状態として記述するため、電磁場のゲージとして対称ゲージを選択したが、相対論的量子力学の枠組みでこのような計算を行った事例がないため、波動関数の解析的形式やランダウ準位間遷移による光子放出の導出をすべて自身で行う必要があった。また、放出光子がベッセル波となることは容易に想像できたが、通常のベッセル波は長軸近似のもので正確なものではなかったので、これも正確な光子の波動関数を求めた。このとき、従来考えられているように、光子渦の波動関数を軌道角運動量とスピン角運動量の固有状態とすると、二つの状態が対角化せず、強磁場で放出された光子の波動関数を正しく記述できないため、この修正も行った。相対論的枠組みでのランダウ準位間の計算はあまり行われておらず、対称ゲージのものは皆無であった。このため、式の導出から数値計算まですべてを一人で実行した。ただし、実験や天体系についての情報や式のチェック等を共同研究者に依頼した。強磁場中での渦光子生成の研究はほぼ終了し、国内外の学会で口頭発表を行い、論文もすでに執筆が終わり、論文誌に投稿中である。 当初は、この研究と並行してガンマ線渦による電子陽電子対生成の計算を行い、生成された光子がガンマ線渦であることを実験的に確認する方法を探る計画であったが、実験計画の実行にはまだ時間がかかる上、コンプトン散乱による確認法の研究がほぼ終了し、論文発表を行ったので、電子陽電子対生成の計算を後にずらすことにした。 ただし、電子陽電子対生成では、原子核によるクーロン場が必要で、入射光子と標的原子核の相対位置を決めることが必要であるが、これを実験的に設定することはできない。この任意性をどのように取り込むかを検討しながら進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、電子線加速器とレーザー光を組み合わせてガンマ線渦の実験プロジェクトが進行中で、共同研究を行っているが、このガンマ線渦であることを同定する方法を示すために、これからも電子陽電子対生成の計算を継続する予定である。 それとは別に、実験グループから、生成方法として用いる非線形コンプトン散乱による光子渦生成の確率の計算の要請を受けている。これに関しては、古典論での計算があったが、量子論によるものは皆無であった。円筒座標系で、電子および光子の波動関数をベッセル波で記述すると、従来考えられているよりも、計算が容易になることを発見した。そこで、上記の計算と並行して、この計算も行う計画である。 また、電子陽電子対生成は強力な磁場中でも起こる現象である。そして、天体系で存在する強磁場中では対生成の効果が様々な現象に影響し、特に、伝搬する光子の性質は、真空中の電子と大きく異なることが知られている。そこで、上記の研究の終了後、強磁場中での光子渦の伝搬および電磁相互作用に対するを影響に付いての研究を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)コロナウイルス発生により共同研究の打ち合わせや,学会等の出張を自粛せざるを得なかったため。 (使用計画)次年度使用額と令和2年度予算を合わせて、物品費として数値計算用の計算機を購入する。
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