最終年度である2023年度は、宇宙の大規模構造における密度場の非線形摂動論を超えて一般的なテンソル場に適用できる形式に拡張する研究をさらに進め、第4論文の執筆を行った。原稿はほぼ完成して推敲中であり、近く投稿する予定である。また、前年度までに執筆して投稿済みであった第1論文から第3論文の査読結果に基づいて改訂を行った。第4論文の成果により、第1論文から第3論文の記号法を大幅に変更することが望ましいと判明したため、こちらも第4論文と同時に再投稿する。第4論文では大規模構造における統計量であるパワースペクトルや相関関数に対する、いわゆる全天効果や大角度効果と呼ばれるものを取り入れて一般的に統計量を予言する手法を新たに開発した。これによりこれまで知られていた近似的手法を大きく拡張して、より正確な観測量の統計解析を可能にする。
また、研究期間全体を通じて、宇宙の大規模構造に含まれる宇宙論的情報を引き出すための様々な基本的研究成果を得た。例えば 初期宇宙のインフレーション期に発生した可能性のある密度ゆらぎの初期非ガウス性がどのように宇宙の大規模構造の観測量に影響するかを定量的に予言したり解析したりするために必要な数学的手法を導き出したり、宇宙の大規模構造に見られるトポロジカルもしくは幾何学的な特徴を捉えるミンコフスキー汎函数に対して摂動論に基づく新たな数学的公式を導き出したり、また、天体起源ではなくインフレーション期などの宇宙初期に形成した可能性のある原始ブラックホールの存在量について、原始非ガウス性がどのように影響し得るかを導く新たな手法とそれを予言する公式を導くなどの成果を得た。確率統計論や回転群の表現論などの数学的手法を宇宙の大規模構造の定量化に結びつけるというこれまでの研究の流れを変える成果であり、さらなる具体的な問題への応用可能性が大きく広がる。
|