「強い場の物理」から紐解くクォーク・グルーオンプラズマ生成機構

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 19K03836
• 研究機関: 長崎総合科学大学
• 研究代表者: 板倉 数記 長崎総合科学大学, 共通教育部門, 教授 (30415046)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 重イオン衝突 / クォーク・グルーオンプラズマ / 熱平衡化 / 強い場の物理

研究実績の概要

高エネルギー重イオン衝突実験では高速に加速した原子核を衝突させて、原子核の構成要素である陽子と中性子の内部に閉じ込められているクォーク、反クォーク、グルーオンとが自由に動ける「クォークグルーオンプラズマQGP」を生成させると説明するのが常である。しかし、このような「高エネルギーでの」重イオン衝突では、生成するQGPに含まれるクォークと反クォークは、実は衝突前の原子核に含まれるものではない。それらは、衝突直後に存在する強いカラー電磁場から新たに生成したものだからだ。ところが、このように強い場から新たに粒子生成が起こるという描像を採用したとしても、それを記述する標準的理論では生成時間がかかりすぎることが知られている。このように、高エネルギー重イオン衝突では、QGPは生成していると考えられているものの、その生成機構の詳細が理解されていないというのが現状である。本研究では、新たな重要な機構を強い場の存在という観点から探り、解決を目指すものである。

20年度に取り組んだ内容は以下のようなものである。上述のように、強い場からの粒子生成という機構はQGP生成に決定的に重要なものである。それは、場からの粒子対生成であるシュインガー機構に他ならないが、理論的には場に対する低エネルギー有効理論の非線形量子効果の虚部によって記述される。一方で、その虚部を与える非線形量子効果は、有効作用の実部も強く変更を与える。そのような非線形な項が存在した場合の新しい現象として、非線形光学で調べられている「高次高調波の発生」の類似現象があるはずで、その可能性を吟味した。ある振動数を持つ２つのグルーオンが融合してその二つの振動数を足した（より高い）振動数を持つグルーオンを生成する過程で、運動量分布の時間発展を与える。また、これは非線形効果に起因する衝撃波の生成とも密接に関係する現象である。

現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

鋭意進めてはいるが、新型コロナウイルスの影響で大学の講義の準備に予想外に時間をとられて十分な研究時間がとれなかったことと、参加予定であった学会・研究会が延期・中止になったので研究交流が不十分な状態になってしまったことなどから、計画は全体的に遅れている。なお、強い場に関する総合報告を長い間書き進めていたが、ようやく完成の目途が立った。

今後の研究の推進方策

現在取り組んでいる、グラズマ（衝突直後に存在する強いグルーオン場）に対する非線形効果の吟味を続けていく。具体的には、衝撃波生成や高調波生成といった非線形効果がグルーオンの運動量分布をどのように変化させるかの「発展方程式」を導出し、熱平衡化の問題に関係しうるのかを考察したい。

次年度使用額が生じた理由

国内・海外への出張が全くなくなったために、旅費として使われる予算が無くなった。また、異動直後であったので、新しい計算機を購入することで事務手続きが増加することを避けたために、購入しなかった。21年度には徐々に国内への出張をいれたり、計算機を購入することを予定している。