研究課題/領域番号 |
19K03839
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
衛藤 稔 山形大学, 理学部, 教授 (50595361)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 対称性 / トポロジー / トポロジカル ソリトン / 磁気単極子 / 量子渦 / ボーズ・アインシュタイン凝縮 / 拡張標準模型 |
研究実績の概要 |
本研究は「トポロジカル ソリトン」に着目してエネルギースケールや時空次元が全く異なる異なる素粒子と物性の諸問題を有機的に絡めつつ解決することを目的としている。特に高次元と低次元時空の物理現象の共通点や相違点をトポロジカル ソリトンに着目して明らかしたい。 まず初年度の結果の発展として4次元時空におけるソリトンの新しい性質を見出すため、標準模型を最小に拡張した2ヒッグス2重項模型における南部モノポールに着目した。1つ目は、先行研究でZ2対称性が課された理論で構成されたモノポールをZ2対称性がない一般的な理論で再構成した。このモノポールはZ-stringに引っ張られて光速近くまで加速され、その衝突によって宇宙初期に非常に重たい粒子が生成されることを明らかにした。2つ目は、モノポールのトポロジカルな側面を詳しく調べ、標準模型における南部モノポールとの違いを明らかにした。標準模型のモノポールはトポロジカルに自明でが、拡張標準模型の場合はゲージセクターがトポロジカルに非自明でありディラックの量子化条件が常に成り立つことを示した。 さらに高次元と低次元のをつなぐソリトンとして、超対称ゲージ理論とその強結合極限で得られる非線形シグマ模型において新しいトポロジカル ソリトン解を発見した。これはドメインウォールの3次元的なネットワークであり、従来までは2次元的なネットワークしか構成されていなかったものの一般化になっている。特に新しいトポロジカル電荷が自然に定義された事は、綿綿と続くトポロジカルソリトンの研究の中で画期的であり、また一般の時空次元への拡張にも成功した。 更に物性と素粒子の関連を明らかにするために多成分BEC系で量子渦分子の散乱を調べ、QCDのハドロン衝突と類似する様々な結果を得た。この結果は2+1次元系のソリトンを通じてQCDの閉じ込めを理解するきっかけとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2年目の当初計画の1つは、研究初年度の研究を引き継ぎ更にゲージ場だけではなく様々なスピンを持つボソン場や一般のスピンを持つフェルミオン場のトポロジカルソリトン上への局在とトポロジーの関係を解明することである。これについては現在解析を進めつつあり、特に標準模型に必要なカイラルフェルミオンについて、6次元時空中にnon-Abelian量子渦への0質量フェルミオンの局在を解析しており、余剰次元方向のどの点にどのような波動関数のモードが偏在するかという点を明らかにしつつある。結果をまとめるのに少し時間を要しているが解析的な手法と数値計算による手法を組み合わせた研究を行っており、本研究プロジェクトのうちに結果が出ると予想している。 また当初計画の2つ目としては、4次元を超える一般時空次元を持つ余剰次元模型として、トポロジカルソリトン上に3+1次元の標準模型が低エネルギーで出てくるような具体的な現象論模型を研究するというものであるが、これに対しても特に6次元時空中のnon-Abelian量子渦の上に大統一理論を構成する研究を行っており、結果が出揃い研究論文としてまとめているところである。 また、高次元と低次元をつなぐトポロジカルソリトンとして世界で初めて一般次元のドメインウォールネットワーク解を構成することに成功した。これは高次元のブレーンワールド模型の構成にも応用可能である。 さらに当初研究計画にはなかったが、初年度の結果とこれまでの研究との融合させることで、4次元のトポロジカルソリトンの性質として南部モノポールに関する論文や、多成分ボーズ・アインシュタイン系における量子渦分子の散乱シミュレーションを通してQCDの閉じ込め問題に新しい視点から理解する方法を提案することを行った。これは当初あまり予想していなかった進展であり、プロジェクトが思わぬ方向にも発展してきている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の計画は、2年目までに行った余剰次元模型に関する研究結果とトポロジカル物質との類似性や共通項を見出し、余剰次元模型のトポロジカルソリトンに特有の物理現象が低次元系の物質中で擬似的に再現されるような現象がないかを調べることである。このためにはまず2年目に継続的に研究してきた6次元時空中のnon-Abelian量子渦の上のブレーンワールド模型の構成を完成させる必要がある。最も重要なゲージ場の局在についてはほぼ完成しているので早急に研究論文にまとめて発表する。またフェルミオンについても2年目の研究を継続し、量子渦に局在するモードの解析を行う。特に数値計算を必要とする部分があるので、その部分の解析精度を向上させながら研究論としてまとめ上げる作業を並行して行う。 トポロジカルソリトンに局在するフェルミオンとトポロジカル物質のエッジモードには多くの共通点が存在することはよく知られているが、ボゾンであるゲージ場についてはトポロジカルな性質を見るのは容易ではない。ゲージ場に関しては高次対称性の観点から理解することが必要であると思われるので、特に6次元時空中のnon-Abelian量子渦を高次対称性の観点から見直して、ボゾン的な0質量モードの起源とその普遍的な性質を見出す。 また高密度QCDにおける新しいnon-Abelian量子渦を構成しそのトポロジカルな性質を見出すことを計画している。更にここで明らかになるであろうnon-Abelian量子渦の性質を、ブレーンワールド模型にける量子渦にも適用することで全く新しい着想に基づいてソリトン上の低エネルギー有効理論を理解することを試みる。 合わせてQCD物質のカイラルソリトン格子の研究を行い、特にソリトン上の低エネルギー有効理論について本研究計画との関連性を調べる。 また最終年度なので3年間の結果を総括し問題点や今後の方向性を整理する。
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