研究課題/領域番号 |
19K03842
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鎌田 耕平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60835362)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 物質反物質非対称 / カイラル量子異常 / 宇宙磁場 / 重力波 / アフレック=ダイン機構 |
研究実績の概要 |
当該年度はまず、新たな磁場生成機構として、アフレック=ダイン機構に伴うものを提案した。アフレック=ダイン機構はスカラー場のダイナミクスを用いる有力な物質反物質非対称生成機構の一つであるが、これまで認識されていなかったこの模型に内在するスカラー場とゲージ場の非自明な相互作用を発見し、それによってヘリカルな磁場が生成されうることを指摘した。これによってこの研究テーマの軸となる磁場による物質反物質非対称生成が不可避的に起こることがわかり、アフレック=ダイン機構においてより豊かな宇宙論現象論が展開できることがわかった。この研究成果は2019年5月にプレプリントサーバにて発表し、学術雑誌に投稿したが、2020年4月にJounral of High Energy Physics誌において発表された。また、国際研究会COSMO、BLV等、また国内研究会素粒子物理学の進展2019等で発表した。 磁場からの物質反物質非対称生成は素粒子標準模型のU(1)ハイパーゲージ相互作用に伴うカイラル量子異常を用い、ヘリカルな電磁場から非対称を作るものであるが、重力的なカイラル量子異常を用いると、ヘリカルな重力波から同様に物質反物質非対称を生成することができる。これに必要とされるヘリカルな重力波を生成する機構として、アクシオンインフレーションにおいてインフラトンと重力場に異常結合を与えるものがある。しかしこの模型においてはゴーストと呼ばれる不安定性が発生する可能性があり、インフラトンと重力場の結合には上限が与えられる。これを考慮に入れたところ、カイネーションと呼ばれる非標準的な宇宙の熱史を仮定した場合のみ、現在の宇宙の物質反物質非対称を説明することができることがわかった。この成果は2020年1月にJounral of Cosmology and Astroparticle Physics誌に発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は研究計画のうち、インフレーションによる磁場生成機構、およびカイラルプラズマ不安定性機構に関係するものに集中して研究を遂行した。特にアフレック=ダイン機構による磁場生成機構は、違うと思われていた両者のアイディアをつなぐ意義のあるものであり、これにより一般的な磁場生成機構の理解が深まったといえよう。すなわち、スカラー場のダイナミクスがフェルミオンセクターにしか発生しないと考えられていたカイラル磁気効果と同様の働きをすることを、前者が大域的U(1)対称性に伴う化学ポテンシャルと解釈できることによって顕に示すことに成功したのである。また、重力波による物質反物質非対称性生成機構の研究を行うことにより、磁場による物質反物質非対称生成機構との比較から、両者の理解が飛躍的に深まったと確信している。一般にヘリカルな磁場を生成させる機構においてはヘリカルな重力波も同時に生成することが予想され、どちらがより物質反物質非対称性生成に寄与するかは非自明であったが、これによりヘリカル磁場の方が重要であろうということがと示唆された言える。 これらの研究は磁場による物質反物質非対称性生成機構の理解を深める上で重要な成果であり、当初計画していた銀河間磁場の検出、インフレーションによる磁場生成機構におけるバックリアクション問題、およびカイラル磁気流体力学の定式化よりも優先順位が高いと判断し、研究を遂行した。銀河間磁場の検出に関しては理化学研究所の井上芳幸氏、富山大学の広島渚氏、カイラル磁気流体力学の定式化に関しては名古屋大学の藤原素子氏、慶應大学の山本直希氏らと議論を進めている段階であるが、公表できる成果はまだ上がっていない。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、銀河間磁場の検出に関しては理化学研究所の井上芳幸氏、富山大学の広島渚氏、カイラル磁気流体力学の定式化に関しては名古屋大学の藤原素子氏、慶應大学の山本直希氏らと議論を進めていく予定である。 磁場からの物質反物質非対称生成機構に関しては、これまで物質反物質非対称の総生成量のみに注目し、空間的な揺らぎには注意を払っていなかったが、空間的な揺らぎを定量的に評価することによってシナリオに観測的な制限をつけることが可能になることに気がついたため、その考察を現在進めている。これにより当初の研究計画で想定していなかった、磁場による物質反物質非対称性生成シナリオの観測的な検証への道筋が開けることになる。 重力波による物質反物質非対称性生成機構においても、既に発表した論文において比較的簡単に取り扱ってしまった発散の除去に関して、より緻密な考察を加えることが可能であることに気がついたため、それに関する研究を進めている。これによりヘリカルな重力波の生成、そしてそれに付随する物質反物質非対称の生成量に関してより深い理解が得られ、そこから磁場生成機構に関しても何らかの知見が得られるものと考えられる。 これらの研究はインフレーションによる磁場生成機構のバックリアクション問題に取り組むための基礎を与えることに対応しており、これらの研究が完成したのち、バックリアクション問題に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定であった3月末の琉球大での研究会がコロナウィルスの蔓延によりヴァーチャル開催となり、その分の旅費が使用できなくなったため次年度使用額が生じた。今年度も多くの研究会がオンライン開催となっているが、やはりオフラインの研究会で他の研究者と直接質疑応答できる発表をすること、その他ブレーンストーミング的な議論をすることは重要であり、後期において研究者が集まる研究会が開催されることを期待し、そのための旅費として使用する。
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