研究課題/領域番号 |
19K03842
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鎌田 耕平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60835362)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 重力波 / カイラル効果 / 宇宙磁場 / インフレーション |
研究実績の概要 |
当該年度は、まず、重力場において、カイラル磁気効果と同様の効果が起こり、興味深い現象が生じないかを調べた。その結果、カイラル非対称がある系において重力波に比例したエネルギー運動量テンソルが誘起される、カイラル重力効果が起こることがわかった。カイラル磁気効果はU(1)ゲージ場にタキオン不安定性を生じさせるのに対し、カイラル重力効果は重力波にゴースト不安定性を生じさせうる。前者は理論の破綻なく首尾一貫した系の発展を追うことができるのに対し、後者は高エネルギーで理論を破綻させるため不安定性が成長してはならない。一方、低エネルギーでは理論を破綻させずに系を発展させ、首尾一貫した解析をすることが可能であり、特にカイラル非対称が時間変化する際にのみ、重力波に複屈折、すなわちヘリシティモードごとの分散関係の違いを生じさせることがわかった。時間変化するカイラル非対称は、バリオン数生成機構が働いているとき、電子湯川相互作用が熱浴に入るとき、そして宇宙膨張によって実現されるが、カイラル非対称の時間変化がなくなった後も重力波のヘリシティモードに振動が残る「メモリー効果」を示すことを明らかにした。この成果はJournal of High Energy Physics誌において発表された。
さらに、インフレーション終了後、インフレーションを引き起こした場 "インフラトン" が運動エネルギーのみを持って宇宙のエネルギー密度を支配するシナリオにおいては、ビッグバン宇宙をどのように実現するかが課題であったが、インフラトン場がハイパーU(1)ゲージ場とChern-Simons結合を持つ場合、電磁場にタキオン不安定性を生じさせ、ビッグバン宇宙を実現させられることを示した。この成果はJournal of Cosmology and Astroparticle Physics誌において2021年4月に発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍による移動の制限のため、対面での議論、研究発表の機会は失われたが、引き続きzoom、overleaf、slack等による研究の効率化を図っている。 当初の研究計画から派生した、重力波におけるカイラル磁気効果同様の効果、「カイラル重力効果」に関する研究は、世界でもまだ研究の進んでいないテーマであり、世界に先駆けて研究を進めることが重要であると考え、そちらを優先した。結果、これまで見つかっていなかった「メモリー効果」を指摘できたのは重要な成果であると考えている。 また、アクシオンインフレーションにおける磁場とカイラル/バリオン非対称の共生成は、前年度までの研究で重要で興味深いテーマであり、特にインフレーション終了時の解析は難しいものであるとわかっていたが、「kination」と呼ばれるインフラトンの運動エネルギーで宇宙が支配されるシナリオにおいては比較的容易に解析が可能であることに気づき、その場合の興味深い振る舞いを明らかにすることができた。特にこのシナリオは、インフラトンが誘起した電磁場からシュウィンガー効果で生成された粒子によってビッグバン宇宙が実現される「シュウィンガー再加熱」の首尾一貫した具体例であると言える。 当初の研究計画のひとつであるカイラルプラズマ不安定性に関しては、特にアクシオンインフレーションで動機づけられる、カイラル非対称とヘリカル磁場が初期条件として同時に存在する場合の系の発展に関して、数値磁気流体力学の専門家である北欧理論物理学研究所のAxel Brandenburg氏、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のJennifer Schober氏らと議論を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き、カイラルプラズマ不安定性に関して、北欧理論物理学研究所のAxel Brandenburg氏、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のJennifer Schober氏らと、カイラル非対称と磁気ヘリシティが同時に初期条件がある場合の系の発展に関する議論を進める予定である。前年度の成果である物質の非対称と磁場の共発展が右巻きニュートリノによって変更を受ける機構は、アクシオンインフレーションにおいて実際どう起こるかに関しては定量的な考察が可能であり、現在研究を進めている。その成果は今年度の近いうちに論文として発表する予定である。 磁気流体力学においては、近年、今まで認識されていなかった新たな保存量、および磁気リコネクションの効果が指摘され、シミュレーションの結果をより良く説明できる、これまでと違った磁場の発展が示唆されている。それを宇宙論的磁場の発展に応用することによって初期宇宙の磁場生成機構から現在の銀河間磁場の分布がどう決まるかの予言が変わり、前年度の成果であるバリオン等曲率揺らぎからの銀河間磁場への制限は変更を受けることが期待される。そこで、その宇宙論的磁場の発展に合った定式化を行おうと考えている。 銀河間磁場の検出に関しては大阪大学の井上芳幸氏、富山大学の広島渚氏と引き続き議論を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、参加予定であった国内外の研究会、研究機関、大学への訪問、および研究者の招聘が不可能となったため、次年度使用額が生じた。オンラインによる研究の議論は可能であるものの、やはりオフラインの研究会で他の研究者と直接質疑応答できる発表をすること、その他ブレーンストーミング的な議論 をすることは重要であり、コロナ禍が収まり、国内外の研究会への参加、研究機関への訪問、および国内外の研究者の招聘を行い、より集中的な研究の遂行を行う予定である。
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