研究課題/領域番号 |
19K03843
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
小池 裕司 新潟大学, 自然科学系, 教授 (60262458)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ハイペロン偏極 / ツイスト3 / 摂動QCD / SIDIS / 破砕関数 / クォークグルーオン相関 / コリニア―因子化 |
研究実績の概要 |
無偏極核子核子衝突から包含生成されるハイペロンの横偏極現象の起源を解明するため、摂動QCDのコリニアー因子化の枠組みで、この過程の微分断面積の表式を導出した。この枠組みでは、ハイペロンの偏極は核子中あるいはハイペロンの破砕過程におけるクォーク・グルーオンの多体相関を反映したツイスト3観測量として現れる。一般にツイスト3観測量に対する解析は、その困難さから結合定数について主要項を取り入れる近似(LO近似)で行われている。我々のこれまでの研究で、ツイスト3分布関数ならびにツイスト3クォーク破砕関数からの寄与はLO近似ですでに計算していたが、ハイペロンのツイスト3グルーオン破砕関数からの寄与が、完成されていなかった。今年度の研究により、この寄与の計算手法に関し完全な理解が得られ、LO近似の断面積を完成させた。ツイスト3グルーオン破砕関数の間に成立している、演算子恒等式に基づく関係(QCDの運動方程式関係式、ローレンツ不変性関係式)をもとに,断面積のゲージ不変性や座標系独立性について完全な理解が得られ、結果を査読雑誌に発表した。 また、同様なハイペロン偏極現象は、レプトン核子衝突(SIDIS)におけるハイペロンの包含生成過程にも現れる。終状態にハイペロンの外にレプトンも捕獲するため、運動学はより複雑になるが、上述した核子核子衝突におけるハイペロン生成過程の研究で開発した定式化を、この過程に適用することにより、完全なツイスト3断面積を得た。結果は2編の論文として査読雑誌に公表した(1編は掲載済、1編は受理決定したところ)。 これらの結果は、PANIC 2021, SPIN 2021というこの分野を代表する2つの国際会議にて、4つの口頭発表(院生3回と代表者1回)により報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SIDISにおける大きな横運動量を持った偏極ハイペロンの生成過程は我々の用いたツイスト3機構で解析可能であるが、小さな横運動量をもった偏極ハイペロン生成過程の記述には、クォークグルーオンの固有横運動量を取り入れたTMD因子化が有効であることが知られている。この2つの理論的枠組みは中間横運動量領域でマッチすることが期待されるが、この点のチェックまでは完成しなかった。 ツイスト3機構をもとに、LO近似でのシングルスピン非対称の研究を行ってきており、予定していた全過程について定式化を完成し断面積公式を導出した。当初の予定では、これらの研究を更に、結合定数について次主要(NLO)補正を取り入れるよう拡張することを計画していたが、そこまで至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
先ず、SIDISにおける偏極ハイペロン生成過程に対し、TMD因子化とツイスト3因子化の間のマッチングを明らかにすることが必要である。 次に、ツイスト3観測量であるシングルスピン非対称(ハイペロン偏極過程を含む)に対し、NLO補正を取り入れる定式化を試みる。最も簡単と考えられる電子と横偏極核子の衝突からのパイオンの包含生成過程について定式化をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため参加予定していた国際会議や学会などがオンライン開催となったため。研究がやや遅れているいるため、未使用の予算を基に未完の課題に取り組む予定である。
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